『この一番』(大川博/東京書房/1959年)
数字とビジョンを持ち合わせた本当の経営者
東宝の次は東映である。東宝の森岩雄が「とても日本の国力では出来ないとあきらめた」アニメをやりはじたのが東映の大川博。日本初の本格劇場カラー長編アニメ『白蛇伝』によって日本のアニメ産業をスタートさせたが、翌年、つまり昭和34年に本書を出版している。
大川博の守備範囲は広い。借金で瀕死状態であった東映を立て直しただけではなく邦画NO1の会社にまで押し上げた。さらには不振にあえぐ東映フライヤーズ(日本ハムファイターズの前身)を日本一に導き、遂には東映動画を設立し日本初の長編劇場カラーアニメを大成功させた。
それだけではない。映画界の中にあっていち早くテレビの可能性に気付き、放送局(NET=テレビ朝日)を設立。そして、経営者としてNET(現在のテレビ朝日)を率い、東映が放送界で一大陣営となる礎を築いた。
これらの成功がどこからもたらされているかといえば、まず大川博の数字に対する強さであろう。とにかく、数字による事業の組み立てが早く、かつ正確であるが、それは直感的にレベルまで高まっていたようである。
しかしながら、もちろん数字に強かっただけではない。経営者に不可欠なビジョンもしっかり持っていた。アニメに関しては習俗や言語の壁を越えて海外で通用する可能性を見出し、テレビはアメリカでのマーケティングに基づきその将来性を確信している。
数字とビジョンを持ち合わせている意味では本当の実業家であったのだと思う(手塚治虫は有り余るほどのビジョンはあったが数字が欠けていた。当たり前のことであるが実業家ではなかったのだ)。
東映動画を訪れた際に、アニメーターに向かって「漫画の諸君」と声をかけ苦笑が起こったという記録もあるように、大川博必ずしもコンテンツを理解していた訳ではない。本書はその大川がどのように東映、東映フライヤーズ、東映動画、そしてテレビといったコンテンツビジネスを成功させたかがよくわかる一冊である。
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