本日は、5月18日(土)にワーナマイカル板橋でのイベントのために来日する、蔡旭晟(ツァイ・シウチェン/Tsai Shiu-Cheng監督)について話をしてみたいと思う。
監督は1979年生まれとのことなので、現在33歳。
以下、プロフィールである。
1979年5月1日、台湾高雄市生まれ。日本のアニメーションから様々な影響を受けて育ったが、その中でも特に男鹿和雄に強い関心を持ち美術を志す。
1997年台湾国立芸術大学 美術油絵学科入学。
2001年、同大学卒業後、大学院へ進学アニメーションの勉強を続ける。
2005年、大学院卒業後、個人のスタジオを立ち上げアニメーション制作の仕事をはじめる。
2008年、台湾政府の支援を受けて「Time of Cherry Blossoms」の制作を開始。
2011年、3年の歳月をかけ「Time of Cherry Blossoms」が完成。
と、紹介はここまでとして、蔡監督から5月18日(土)のワーナマイカル板橋に向けてメッセージが届いているので紹介したいと思う。
蔡旭晟監督からのメッセージ
私の作品『Time of Cherry Blossoms』が日本で上映されることに大変感謝しています。このような貴重な機会を与えてくれたワーナー・マイカル社、並びに東京国際アニメフェア事務局の皆様に心からお礼を申し上げたいと思います。
日本では現在、魏徳聖(ウェイ・ダーション)『賽徳克・巴莱(セデック・バレ)』が公開されていると聞いていますが、台湾映画のエポックメイキングとなったこの作品と同時期に私の作品が上映されることを大変名誉に思います。そこで、台湾映画と私の『Time of Cherry Blossoms』の関係について少し述べてみたいと思います。
次の時代を迎えている台湾映画
台湾の映画界は、私の尊敬する映画監督である侯孝賢やエドワード・ヤンが築いた「台湾ニューシネマ」時代を経て空前の困難に直面するようになりました。観客はハリウッド以外の作品は興味を示さず、中には台湾映画自体に拒否反応を示す人さえいました。
そこに登場したのがウェイ・ダーショ監督の『海角七号 君想う、国境の南』です。台湾をテーマとしたこのオリジナル作品が観客に受け入れられることで(台湾映画史上第2位の大ヒットとなりました)、映画人やアニメ制作に関わる人々は次第に自信を持って映画製作に身を投じるようになりました。その後、その流れは2012年のウェイ・ダーション監督『賽徳克・巴莱(セデック・バレ)』で決定的なものとなり、林世勇や楊雅喆といった若手監督が続くといった状況となっています。
台湾と真正面から向き合う
今回、東京国際アニメフェアでグランプリ、及びワーナマイカル賞をいただいた作品『Time of Cherry Blossoms』も、決してこの流れと無縁ではありません。このアニメーションを制作するに際しての私のテーマは「台湾と真正面から向き合う」ということでした。今までの台湾のアニメーションの多くがそうであったように、ハリウッドの真似をするのではなく、我々の歴史や文化を正面から取り上げテーマとする。私はこの作品を作るにための取材を重ねる中で、自分でも知らなかった「台湾との出会い」を何度も体験しましたが、それが『Time of Cherry Blossoms』を経ることで、次第にそれが何であるか明らかになって来ました。
「台湾生まれ台湾育ち」のオリジナル作品を目指して
私は台湾の芸術大学で西洋画を学びましたが、アニメーションに関しては全くの独学です。しかしながら、実は勝手に私淑する多くの「師」がいました。宮崎駿、押井守、原恵一、細田守といった敬愛して止まない日本の監督達です。また、台湾と多くの仕事をされており、『セデック・バレ』の美術監督である種田陽平さんの作品からも本当に多くの事を学びました。
私は、いつか完全に「台湾生まれ台湾育ち」のオリジナル作品を作りたいと思っています。しかし、これは台湾人だけで製作するという意味では決してありません。『海角七号』や『セデック・バレ』もそうだったように、私が今後作ろうと思っている作品においても、日本との関係は欠かせないと感じています。逆説的な言い方になるかも知れませんが、台湾オリジナルの作品を作るためには、日本や中国、韓国とのコラボレーションが必要な時代になっていると思います。それが、私の内なるナショナルなものとインターナショナルなものの融合なのです。次回作は台湾の自然をテーマにしたものを考えています。その作品を通じて皆様に会える日を楽しみしています。
『Time of Cherry Blossoms』について
「桜」の台湾語の発音には「子供」という意味もあります。その子供の目線、観点で見ている人々を台湾の神々の世界へ誘うのが『Time of Cherry Blossoms』です。
この作品は、ある日、山の中で満開の桜を見たことがきっかけとなっています。桜の木の下に小石で出来た小さな廟(祠)がありました。この廟は地元の人が神様に「風調雨順(物事がすべてうまく運ぶように)」を願うために作ったものです。私は咲き誇る満開の桜と慎ましい廟の対比を見て深く感動しました。まるで満開の桜を通じて、神様が人々の願いを叶えているように見えたのです。それは、余りに美しく、余りに幻想的なシーンでした。
熱帯性の台湾では桜はどこでも見られるというわけではなく、花見のためには都会から離れて、わざわざ大自然の山奥や田舎へ行かなければなりません。そのため、いつ頃からか、満開の桜を見ることは台湾人が現実生活から逃避するという意味合いを持つことになりました。私は『Time of Cherry Blossoms』で台湾の人々を現実世界から、美しく幻想的なアニメの世界へ連れて行きたいと思ったのです。
蔡旭晟
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