津堅信之『アニメ作家としての手塚治虫』
(07年/NTT出版/本体2,400円+税)
通説を覆した力作
アニメビジネスがわかる本1で紹介した津堅氏氏であるが、この作品は最近読んだアニメビジネス関係の本で一番衝撃的だった。それは、すでに定説となっていた虫プロの『鉄腕アトム』(1963年)の受注金額(テレビ局や代理店から出る制作費。ただし、制作費といっても実制作費が満額出る訳ではなく、大概はテレビ局の任意で決められている)55万円を覆し、実は155万円であったという事実を取材によって突き止めたからである。
宮崎駿氏も著書で述べているように、『鉄腕アトム』を制作する際に、手塚が率いる虫プロが極端に低い金額(55万円)で制作を受けたため、その後のアニメ制作現場が塗炭の苦しみを舐めたというのがアニメビジネス史における定説であった。しかし、津堅氏氏の本によってそれを再検証する必要が出てきた。
ところが、複雑なのはこの155万円という金額は、実はテレビ局(フジテレビ)からの制作費に代理店(萬年社)の補填金が含まれたているのである。ここに、日本のアニメ生産の95%を占めるテレビアニメにおいて長年問題となっている制作費の性質(制作・製作費なのか出資なのか、あるいは放映権料なのか)や妥当性ついて考えるカギが含まれている。
本書は虫プロを中心とした多くの人間に直接取材することで、今まで知り得なかった情報を数多く開示している。アニメビジネスに興味を持つ人間なら必携であり、手塚治虫に興味を持つ人間にとっても興味深く読める力作である。
コメント