名和小太郎『ディジタル著作権』(みすず書房/3,500円税別)
揺れ動く著作権
本日より三冊ほど本を紹介する。
1980年以降に起こったデジタル技術の爆発的な進歩は創作環境を一変させた。それと共に、従来の著作権法が依って立つ前提をあっという間に吹き飛ばしてしまった。
現在の著作権法を成立させる前提としてあるのは、作品(著作物)は天才である創作者(著作権者)によってしか誕生させられない。また、その作品を複製するには多大な設備投資と資金がなければできない(出版にせよ、レコードにせよデジタル以前は確かにそうだった)というボトルネックが存在するために、そこを押さえればコントロールできるというものであった。
ところが、現在ではデジタル技術によって、いとも簡単に作品創作が可能になった。その象徴が音楽であろう。楽器が出来なくても作曲ができるようになった。また、インターネットとコピー&ペーストを駆使すればすぐに二次著作物がつくれる。
さらに、複製にしても今や設備投資や資金といったボトルネックは存在しなくなった。コンピューター一台あれば済んでしまうのである。その結果、著作物の財産性を脅かすという現象が生まれ、個人のレベルでは複製は自由という「私的使用」が難しい問題を孕むようになった。
このような時代の著作権の在り方について、真正面から取り組んだのが本書『ディジタル著作権』である。著者は弁護士や法学部の教授といった、いわゆる法律家ではなく理系の工学博士である。したがってデジタル技術にも明るいのだが、何よりも特筆すべきは、デジタル技術が引き起こした実態と、現状の著作権との齟齬に根本的に取り組む姿勢である。そこには数多の著作権専門家にはない視点がある。
現状の著作権では現在の実態を捉えきれないため、今後三つのタイプに分かれるであろうと著者は予言する。
(1) 伝統型著作者による標準型著作権像
(2) 財産権指向型作者による強い著作権像
(3) 人格指向型作者による弱い著作権像
(以下、明日に続く)
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