第7回東京国際アニメフェア⑳〜第四回アニメ功労賞その3
受賞のコメントでいきなり唄い出したのはやなせたかし氏である。よくあるらしいが初めてのことだったので度肝を抜かれた。『アンパンマン』だけがクローズアップされがちな氏であるが、虫プロ製作の『千夜一夜物語』で美術監督やキャラクターデザインも努めている。元々やなせ氏はデザイナーとして出発した。絵本やマンガについては広く知られているところであるが、舞台美術や作詞、番組構成など多彩な才能を発揮していおり、今回の受賞はそういった側面も考慮してのことであった。受賞者の中で最高齢の89歳のやなせ氏であったがその若々しさには改めて驚かされた。
10年前程前大手代理店系の広告制作会社の若手社員と知り合う機会があった。在京テレビ局に就職しその後劇団を経てその制作会社で働くことになった元ドラマーの彼は渡辺岳夫氏のご子息であった。渡辺岳夫氏については今さら述べるまでもないが、国民的アニメソングとも言える『巨人の星』の作曲者である。『アタックNO.1』『アルプスの少女ハイジ』『天才バカボン』『機動戦士ガンダム』など歴史的作品のテーマソング、BGMを手がけた。その音楽はアニメファンのみならずその当時を生きた日本人の心に深く刻み込まれている。手塚治虫が亡くなったのと同じ年に56歳の若さで逝去。今回の授賞式はご子息が出席され数年ぶりに再会した。
功労賞の対象は個人だけではない。昨年のドラえもん声優チームがそうであるように団体、法人のケースもある。今回法人として受賞したのがコロムビアミュージックエンタテインメントと太陽色彩である。
コロムビアはビクターと並んで日本の音楽界をリードしてきた名門レコード会社である。筆者の世代でコロムビアといってすぐに思う浮かぶのは美空ひばり・島倉千代子・都はるみ・舟木一夫などであるが、EMIやCBSコロムビアといった洋楽の大きなレーベルも抱えていた。しかしながら、ビートルズが世界的なブレイクをする前にEMIは東芝に移籍。サイモン&ガーファンクル、サンタナ、シカゴ、ブラッド・スエット&ティアーズなど60年代後半から70年代初頭にかけて一世を風靡したアーティストが活躍する前にCBSコロムビアがソニーと組むことになったこともあり、筆者がキティレコード会社に入社した1979年当時コロムビアは歌謡曲・演歌のレコード会社というイメージが強くなっていた。長年のライバルであったビクターはサザン・オールスターズなど1980年代から音楽界の中心になるJ-POPのアーティストの育成に成功したが、コロムビアは積極的ではなく、それもあってか日立グループから離脱し企業再生ファンドのリップルウッドの手に渡ることになった。そんなコロムビアで一貫して元気なのがアニメソングである。そのラインアップを見ればテレビアニメ創生期から現在に至るまでその歴史を担ってきたことがわかる。偉大な業績を誇るコロムビアの更なる活躍に期待したい。
太陽色彩という名前に馴染みが薄いかと思われるが、絵の具メーカーとして長年に渡って日本のアニメ業界に多大なる貢献をしてきた会社である。1975年に設立された太陽色彩はスタジオからの要請に誠実に応えることで、1990年代に入る頃にはセルアニメ用の絵の具のシェアの大半を獲得するに至った。彩色のパートが韓国、中国へアウトソーシングされるようになり、それらの国々にまで太陽色彩の絵の具が輸出されるようになったが、1990年代末頃からはじまった彩色のデジタル化によりその需要は目に見えて減り、現在絵の具を必要とするセルアニメは『サザエさん』一本のみとなった。この番組が続く限り太陽色彩の仕事は続くであろうが長年の功労に改めて敬意を表したい。
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