横田正夫『アニメーションとライフサイクルの心理学』(臨川書店/2,600円税別)
アニメクリエーターたちの中年危機
著者は日大で心理学を教える医学博士にして日本アニメーション学会会長という肩書きを持つ。アニメに興味を持ちはじめたのは日大芸術学部在学中に川本喜八郎と岡本忠成に出会ってからで、それ以降心理学の道に進みながらも生涯のテーマとしてずっとアニメを追い続けている。
心理学者としての横田氏が取り組んだのは「映画技法の心理学的な解明の試み」であったが、次第にそれは「アニメーションの技法を、心理学の方法を使用して検討するという方向」へと変化する。そして、その興味は本書で一貫して述べられているように、「作り手」の「ライフサイクルにおける中年危機」へと絞られてくる。
男性における「中年危機」とは一般的に、今までの人生に対し根本的な疑念を持ったり後悔の念を強く抱く、また社会的地位や家庭的役割を放棄し現実から逃げ出したいといったものである。そして、この「中年危機」はもちろんアニメーション作家であろうと決して無縁でいられる訳ではない。
本書で横田氏はイジー・トルンカ、川本喜八郎など例に上げ、彼らがどのように「中年危機」と向き合いそれを克服していったかについて言及している。また第四章では『ゲゲゲの鬼太郎』についてマンガとアニメの両面からその「中年危機」についての分析が行われている。今までアニメやマンガが心理学の対象となることはほとんどなかったが、今後はそういう動きも見られるようになるであろう。そうした方面に興味のある方にはお勧めの一冊である。
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