Vol.27〜第一部手塚治虫とマンガ〜第二章手塚治虫成功の秘密
手塚治虫を育てた文化〜漫画⑤〈単行本漫画〉
雑誌のみならず単行本漫画においても講談社はリーダーであった。「少年倶楽部」に連載され子どもたちの間で大ブームとなった『のらくろ上等兵』は昭和7年講談社から単行本として上梓され、13万4000部という漫画出版はじまって以来の大ヒットとなった。
この単行本は箱入りハードカバーの上製本で価格は一冊1円、現在なら2,000円にも相当するものであることを考えると、現在でいえば数十万部万部以上に相当する数字であろう。手塚は子どもが簡単に手に出来るものではなかったこの『のらくろ』シリーズや同じ講談社の『冒険ダン吉』なども親から買い与えられていたおり、この頃の子どもとしては非常に恵まれていたことが伺える。
また、この講談社の対抗軸として健闘した漫画出版社として中村書店があった。「昭和戦前期の子供漫画の名作、ヒット作最も多く送り出したのは、講談社と中村書店のふたつの出版社である」(清水勲/前掲書)とあるように、中村書店から発刊されていた「ナカムラマンガ・ライブラリー」(後にナカムラ絵叢書)には手塚治虫も熱中した大城のぼるの『チン太二等兵』『火星探検』など多くの名作があった。
中村書店の漫画シリーズの価格はおおよそ75銭程度で、講談社よりは安いもののやはり赤本漫画などから比べると高級品であった。手塚治虫はこれらのシリーズもほとんど親から買い与えられており、おそらく日本子どもの中でも最も恵まれた漫画読書環境にあったと言えるであろう。
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