第二部手塚治虫とアニメ
2−2海外を席巻するアニメパワー
大統領自ら日本製アニメの放送禁止を宣言
このような日本製アニメの「侵略」はヨーロッパに限ったことではなく、アジアでは大統領自ら日本製アニメの放送中止を国民に向けて訴えかけた国があった。
1979年8月、当時フィリピンの大統領だったマルコスが、突然『ボルテスV』(製作:東映/アニメ制作:日本サンライズ)の放送中止を宣言した。わざわざ大統領自ら国民に、しかも子ども向けアニメ番組の放送中止を訴えたその事情の裏側には何があったのか?
1978年、マルコス政権下のフィリピン国営放送で毎週金曜午後6時から放映が開始された『ボルテスV』は、瞬く間に子どもたちの人気をさらい、最高視聴率58%という驚異的な数字を記録するまでになった。そのため、巷には関連商品が溢れ子どもたちはそのとりこになった。
ところが、フランスでもそうであったように、子どもたちの関心とは裏腹に、親や教師は「内容が暴力的すぎる。成長期の子どもに悪影響を与える番組だ」と心配した。フィリピンもフランス同様カソリック圏で規律は意外と厳しい。そこに目をつけたのがマルコス大統領であった。
当時フィリピンの政治事情は安定せず戒厳令下にあった。そんな状況下のフィリピンに日本資本が続々と参入してくるのであるが、マルコスはそこに目を付け、密かに芽生えつつあった反日感情を利用することで、戒厳令下にくすぶる国民の不満を逸らそうと考えたのだ。
そこで狙われたのが大人気の『ボルテスV』だったのである。大統領は、アニメを日本資本の先兵になぞらえ、排除することで、国民の眼を政府から遠ざけようとし自ら国民に呼びかけたのであった。
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