『鉄腕アトムの時代 映画産業の攻防』(吉田尚輝/世界思想社2,000円税別)その2
鉄腕アトムがつくられた時代の製作状況
本書の第8章「アニメーション産業の形成」からが本格的なアニメ産業論となっている。アニメ産業の歴史などが書かれているがこの章の結論としてあるのがアニメ産業は「独特な産業構造」を持っているということだ。
少数の下請け企業のもとに多数の零細企業が位置する、可能な限り廉価で短期間に製作する、そのために省力化の技法を開発するという指摘があるが、これは何もアニメに限ったことではない。他の産業でも主語となれる。
アニメが「独特な産業構造」を持つと言われる最大の理由について、著者は「放映権料と製作費の乖離にある」と述べる。確かにその通りである。そもそも日本では人気(視聴率)制作費・放映権料がリンクしておらず、ささやかな利益を含んだ制作費を制作費・放映権料が上回ることは決してない。だから、サザエさんの声優がシンプソンズの主役のように1本で40万ドルものギャラを貰うことなど有り得ない。
実制作費とテレビ局から支払われる制作費・放映権料のギャップは体力のある製作会社ならセルフファイナンスで、ない制作会社の場合大概は代理店から補填して貰ってきた。その源泉となったのがマーチャンのロイヤリティである。
また、そのような構造の中で制作会社はその代償として映像の著作権を与えられていたが、現在では満額の制作費を得る代わりに製作委員会に全ての権利を召し上げられるという仕組みとなった。本書でもそのへんの構造まで突っこんで貰えればアニメが持つ「独特な産業構造」がより浮かび上がったであろう。
突然話は変わるが本日から中国に行く。目的は28日から浙江省の杭州で開催されるアニメフェアを見るためである。多分中国からもブログをアップできるかと思うが、ひょっとしてお休みするかも知れないので予めお知らせしておく。
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