『鉄腕アトムの時代 映画産業の攻防』(吉田尚輝/世界思想社2,000円税別)その3
アトムが残した遺産
本書の最終章を飾るのが「アトムの残した遺産」である。これについて著者はアトムがなぜ後発のフジテレビで放映されたのか、またその放映権料がどのように決定に至ったのかというポイントから言及がはじまる。
途中様々な考察が行われるが、『鉄腕アトム』の遺産として最終的に以下の四つが上げられている。
1) 少数の劇場アニメと膨大なテレビアニメの併存
2) 旺盛な輸出
3) 作品の幅広さと内容の描写のユニークさ
4) 少数の元請け企業のもとにおびただしい下請け零細企業が存在する産業構造
以上であるが、確かに現状は指摘通りであると思うが、アトムの遺産と考えられるものとは相違があるように思える。そもそも「『鉄腕アトム』の遺産」自体が明確に定義づけられていないためもあろうが、例えば旺盛な輸出はアトムが契機ではじまった訳ではない。確かにNBC商事(本体ではない。さらに放映されたのはNBCのネットワークではなくシンジュケーションである)にアトムが買われたのは事実であるが、その後はライオン大帝などを例外として途絶えており偶然的要素が高かった。
アトムの遺産は、テレビアニメの放映権料・制作費を安く留め置いたため、限られた予算と時間で表現できる独自の技術を開発せざるを得なかったが、そのため(安いため)沢山つくられるようになり(リミテッドアニメの技術革新が成ったため)、海外にも買われるようになり今日の繁栄を生んだという極めて逆説的な遺産であったように思う。
NBCの件もそうであるが、基本的な事実誤認(番組の放送局が違っているなど)が随所に散見された。版が直るときに改められることをお勧めする。
時にこのブログは中国の杭州からアップしている。
本日からアニメフェアが開催されるが、詳しくは6月頃アニメ! アニメ!サイトでレポートすることになるかと思うのでビジネス的な内容のものはそこで取り扱おうと思っている。
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