『神山健治の映画は撮ったことがない』(神山健治/INFASパブリケーションズ1,714円税別)
300億の市場を取りに行くのはどこか?
失礼ながらINFASパブリケーションズの名前を初めて聞いたので調べてみると流行通信やSTUDIO VOICEを発刊している会社であった。雑誌の発売権がライセンスないしは譲渡されたのであろう。
本書はSTUDIO VOICEに連載されていた神山監督の「LESSON」をまとめたものに、中島哲也、押井守との対談を付け加えたものである。あくまで「映画論」であって「アニメ論」ではない。
最近の若い世代(クリエーターズにも)にはTVアニメも劇場アニメも同じであるというような見方があるようだが、ある世代以上の人間に取ってTVと劇場は決定的に違うという考え方が支配的である。特にTVアニメ以前の世代はほとんどが映画青年であったということもあり、その頂点に劇場作品が常にある。
では、そもそも劇場アニメとTVアニメの違いがどこにあるのかということを展開すると終わらなくなるので割愛するが、神山氏は師匠の影響もあり常に「映画」を意識して作品づくりをしている。本書を読めばその意識は明らかである。
同様に映画を意識し、その想いを発信している同世代の監督に今敏、細田守がいる。神山氏もその中に入るのであろうが、唯一違うところはまだ長編劇場映画を監督していないところにある。
本書にある映画理論はなるほどうなずける点が多い。あとはそれを秋の『劇場版東のエデン』でどう結実させるかであろう。そして、おそらくそれ以降、神山氏の仕事は劇場アニメ中心になるであろうと推測される(会社の事情でそうはならないかも知れないですが)。
宮崎作品の次回作の予定がない現在、最大で300億の興行収入が実証されているオリジナル劇場アニメの市場を果たして誰が取りに行くのか。TV主導で来た日本のアニメであるが、劇場アニメへとビジネスモデルを変換させる企業は果たしてあるのだろうか。
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