『失敗の本質』(戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井知秀・野中郁次郎/中公文庫762円税別)
戦略なき成長の限界
日本はなぜ戦争に負けたのかその失敗の原因を探った本である。一見アニメとは関係なさそうに見えるが、その要因を戦略と組織という二つの次元から検討した本書にある日米の対比表を見るとこれが大いにありそうなのである。
この日米両軍の戦略・組織特性比較であるが、そのまま日本のとアメリカのアニメ業界にも当てはまるのではないだろうか。日本2Dアニメ、アメリカ3Dアニメという傾向性の違いが顕著になりはじめた現在、その感を強くするのである。以下、本書における日米両軍の具体的な比較である。
【戦略】
(1)目的
日本軍→不明瞭
米軍→明瞭
(2)戦略志向
日本軍→短期決戦
米軍→長期決戦
(3)戦略策定
日本軍→帰納的
米軍→演繹的
(4)戦略オプション
日本軍→狭い
米軍→広い
(5)技術体系
日本軍→一点豪華主義
米軍→標準化
【組織】
(6)構造
日本軍→集団主義(人的ネット)
米軍→構造主義(システム)
(7)統合
日本軍→属人的統合
米軍→システムによる統合
(8)学習
日本軍→シングル・ループ
米軍→ダブル・ループ
(9)評価
日本軍→動機・プロセス
米軍→結果
この日米の相違はアニメ制作やビジネスにおいても結構当てはまるように思える。例えば(1)の目的。アメリカではその作品を以て何を獲得するのかが明確であるように思える。例えば劇場アニメならBOX OFFICEにおいてどのような位置を占めるのか、そのためにどのようなマーケティングをすべきかがかなり明確である。また、表現に於いても獲得すべきものがテーマとしてはっきりある。内容はもちろんだが、最先端の音響やCG技術、あるいは飛び出す3Dなど、客に訴えかける戦略がしっかりとある。
(2)の戦略志向も明らかに違う。アメリカのアニメはハリウッドメジャーが製作しているということもあり長期的なトレンドを考えながら事を進めているのは明かである。劇場アニメが多いということもあり既に3〜5年先のラインアップまで決まっているが、日本の場合は2年以上先のことはほとんど考えられないのが現実であると言ってもよい。
そして日米の違いが一番現れているのが(3)の戦略策定であろう。少しニュアンスは違うかも知れないが、アニメを制作するに当たりアメリカはまずは全体のグランドデザインから入る。それに対し日本はとりあえずつくりはじめる場合が多い(結末が決まらないままスタート、あるいは途中で結末が変わる企画が結構多い)。
この他にも(5)の技術体系や(6)構造においてもそのままアニメ製作・制作に当てはまるだろう。例えば人材養成においてもキャリアプランという発想がないためシステム化とはほど遠い育成状況にある。
まあ、気にしなくてもいいことなのかも知れないが、世界のアニメの65%は日本のアニメと言って喜んでいると、先の大戦のようにいずれアメリカにひっくり返されるのではという危機感がふと頭をよぎる。ということを含めつくづく日本には戦略が必要なのではないかと思う。
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