企業ヒヤリング15〜Vol.13 スタジオ・イースター
【選定理由】
2Dアニメ(セルアニメ)の新人育成を客観的に照射するための材料として3Dアニメの企業をインタビューした。セルアニメから出発し第一人者となった白組を調査することでどのような差異が生じているのかをうかがい知るのが目的である。また、そこにおける人材育成スタイルを知ることは、おそらく今後デジタルの影響を受けていくと思われるアニメーター人材育成の将来を占う材料になるものと思われる。また、アンケートにおいても人材育成がうまく行っている企業として名前が挙がっていた(1社から)。
【企業概要】
1) 企業名:有限会社スタジオ・イースター
2) 所在地:杉並区本天沼
3) 設立:1985年4月
4) 代表者:東潤一
5) 資本金:3,000,000円
6) 設立の経緯:
・ 竜の子プロダクションの下請け会社で美術を担当していた代表が1985年に独立して設立した美術スタジオ。2000年までは従業員20〜25名程度の中堅スタジオであったが、デジタル技術を積極的に導入し(最初は代表自らフォトショップなどのソフトに挑戦、何か新しい事が出来るではないかとデジタルへの移行を決心。美術会社ではフロンティア)、以降は急速に拡大した。デジタル導入当初は早すぎると笑われたりもした。
・ また、監督からも良く言われなかった。だが、直ぐに効率的であることが証明された。例えば以前なら、紙に描いた背景はひとつしかないため、監督にチェックして貰って、それからそれを撮影に回すといった手順だったが、デジタルであれば監督、撮影両方にCD-Rを渡しておいて、OKが出れば直ぐに撮影に入れる様になった。
・ ・デジタルになればスキャンニングする必要もなくなり、そのコストもかからなくなった。というようなことで、次第に生産性が上がり、2年経った辺りからTVシリーズを4タイトル回せるようになって注目が集まりはじめた。その後、順調に仕事が増え、現在では海外の子会社を含み110名ほどの従業員を抱えるほどになり、アンケート回答美術制作会社28社の中では断トツの規模となった
7) 企業属性:美術制作会社ではあるが、デジタル技術を基軸として3DCG、撮影などの方面にも
8) 従業員: 110名(含海外子会社=コリア・イースター・スタジオ)
9) 制作ポリシー:
・ 背景スタッフは全員がデジタルペンを使用するフルデジタル美術制作を基本としている。導入当初は特に職人意識の強いベテラン陣からの拒否感が強かったが、暫定期間をおいて強制的にデジタルに移行、どうしても馴染めない人間はベテランを中心に辞めていった。だが、現在ではそれらの人々もデジタルに移行しているとのこと。デジタルを導入して大きく変わった事が幾つかある。ひとつは仕事のやり方。筆で背景を描いていた時代、その作業は個人のものであり、一人でワンシーンをこなすのが常識であった。
・ しかし、デジタルの導入により、ワンシーンを数名に分散して作業するという画期的な事が可能になった。その結果、個人の空き時間の調整がうまく行く様になり結果的に効率(生産性)が上がった(印象としては20%程度との事。1話1週間で上がる様になった)。これはデジタルによって得手不得手(ボトルネック)がなくなったことが大きい。
・ 誰でもある一定のクオリティを出せる様になった。反面、個性が希薄になったのも確かである。ある意味誰がやっても同じになりクリエイティブに対するロマンが少なくなった面は否めない。従って、レイアウトと美術ボードによって個性を打ち出すしかない。美術監督の意思次第であろう。
・ 職人性は明らかに薄れているが、どんなものでも対応できるため監督とケンカする様なケースはなくなった。そういった意味で対外的な受けは良くなった。
・ 職人性や個性は薄れているものの確実にクオリティは上がっている。早く描ける様になったため、その分クオリティを上げることに時間を費やし作り込みが出来る様になった。
・ 今後は美術の他に撮影や3DCGなどにも力を入れたいと考えており、ある工程以降の作業を一括して受けられる体制を目指し、美術以外にも付加価値を付けることで競争力を増強しようと試みている。
・ 今後、3DCGのカットは間違いなく増えて行く。おそらく5年後には全体の30%~40%程度そうなっているのではないか。その日に照準を合わせた制作体制を作りたいと思っている。
【人材育成】
1)採用傾向:背景がメインであるが色彩や撮影、3DCGといった部門でも採用が増えている。
2)募集方法:
今はHPと学校に対する求人票。以前フロムAに広告を出していたが1〜2名しか応募して来なかった(多い時で5名)。それがある時、背景ではなく「CGデザイナー」として募集としたら120名の応募があった。
3)昨年採用実績:色彩2名、背景4名、撮影3名
4)人材の傾向:
専門学校出身が90%。一昨年来美大生が入って来くるようになり、美大生にもアニメ美術を志望するものが増えている。
5)採用試験:各部署のチーフが選抜する
6)初任給:
美術・撮影・CG職17万円、仕上15万円。2年目まで固定、3年目から能力給。色彩は固定給+能力給となるがベースは変わらない。キャリア3年で、背景、色彩、撮影、3DCG、の平均で25万円以上の収入が取れる様になる。
7)研修ポリシー:
学生インターン、及び採用者に対しては入社直前3ヶ月の集中研修を行っており1日5時間研修で2,000円支給している。
8)研修内容:
教えるのは社内の専門家である。注目すべきは見習い期間の短さ。アナログ時代に比べてデジタル背景では三分の一程度の期間で同じことをマスターできるようになった。
9)キャリアアップ:特にない。
10)資格制度:特に必要とは思われない。
【所見】
・ デジタルを使わないスタジオとは真逆の関係にあるかも知れない。その善し悪しはともかくとして、美術界の台風の目となっているのは間違いないであろう。
・ 今後の方向性に注目したい。おそらく美術会社の枠を取り払う可能性があるのではないか。
・ 仕上や撮影で起こった現象がいま美術の世界で繰り広がられているが、ここでそれが終了すれば次はいよいよアニメーションの部分でデジタル革命が起きるのは間違いないであろう。
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