『マッドハウスに夢中』と尾形英夫さん
それは2001年にオークラ出版から発行された『マッドハウスに夢中』というムック本をつくる際の基礎データとなったことである(と本人は思っているが、実際はアニメデータの泰斗原口正宏氏が作成しているのであろう)。この本は、その当時マッドが制作していた作品のグラビア紹介、りんたろうさん、川尻善昭さん、今敏さんなどマッドに在籍している監督や、出崎統さん、大友克洋さんなど一緒に仕事をして来た関係者のインタビューなどの他に全作品のデータも掲載されておりマッドが制作した作品の概観がわかるようになっている。
ところで、早速横道に逸れるが、この本の了解を取るためにマッドに現れたのが尾形英夫さんであった。飄々とした割には押しが強い、東北なまりのこの人こそ徳間書店でかの『アニメージュ』を創刊した尾形さんであった。雑誌出身の編集者ということもあってか好奇心旺盛で、既に徳間書店を役員定年された年齢であったが非常に若々しい精神の持ち主であり、出版社で働いていた人間としてはなかなか興味深い方であった。その時点で尾形さんはご自分で編集プロダクションをやられておりこの本を企画したという次第であった。
アニメ業界への寄与という観点で考えると、尾形さんの業績は大変なものである。その中でも最大のものは『アニメージュ』の創刊と『風の谷のナウシカ』の製作であろう。両方とも尾形さんの発想によるものであるが、何れも日本のアニメ史に燦然と輝く業績である。その辺の事情は尾形さんの著書である『あの旗を撃て!/『アニメージュ』血風録』(04年オークラ出版)に詳しい。徳間書店に入社し、アサヒ芸能からはじまった編集者としてのキャリアが中心であるが、『アニメージュ』の創刊や『風の谷のナウシカ』アニメ化の経緯などが詳しく描かれており非常に参考となる。アニメ創世記の資料としても一級であり、また宮崎駿氏や富野由悠季氏、安彦良和氏(喫茶店で尾形さんがいきなりウエイトレスに、「お姐さん、ミソ汁ない?」といった爆笑エピソードを披露している)などから寄せられたコメントも楽しい。
このようにアニメ業界に多大な貢献を為した尾形さんであるが、アニメに対する業績に対していささかのこだわりもなかったように見受けられたが、おそらく編集者としての意識が強かったためであろう。
尾形さんは残念なことに今年1月胃ガンのため逝去されたが、その業績については今後必ず歴史的な評価がなされる方であると思う。合掌。
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