金子満『映像コンテンツの作り方』
(ボーンデジタル/4,600円税別)
テレビ局のディレクター、プロデューサーを経て日本で初のCGアニメプロダクション設立、その後アメリカでも同様の制作会社を立ち上げアカデミー賞視覚効果賞受賞(『トータル・リコール』)、現在東京工科大学教授で同大学のクリエィティブ・ラボを主宰する金子満氏の集大成とも言える大変な労作である。
日本人は最初に計画を立てず取りあえず着手する傾向があるように思える。欧米人がまずコンセプトを考えグランド・デザインをつくってから動き出すのとは対照的である。評論家の加藤周一氏は建て増しの連続によってつくられた桂離宮のような建築物に日本文化の本質がある言う(『日本文化における時間と空間』)。つまり「全体」ではなく「部分」からはじまるということである。
アニメ製作においても同様のことが言える。東映動画は設立の際相当の準備期間を置いたと聞くが、日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』では決して万全とは言えない状況で制作に突入したように見える。失敗すれば「蛮勇」、成功すれば「フロンティア・スピリット」と呼ばれる賭けに手塚治虫は勝ち、火急の現場を乗り切るために考え抜かれた制作手法、つまり「部分」から生まれた手法がその後のスタンダードとなった。
そういった日本人の性向のせいか、アニメも含め全体を見渡す視点で構築された映像制作理論はなかった。その意味で本書は全体的視点に立った日本初の理論書と言えるであろう。多種・多様なコンテンツの構成要素を分解し、その中にある共通要素を拾い出してルール化された上で制作工程ごとにわかりやすくフロー・チャートになっている。豊富な製作・制作経験を持つ著者のコメントが説得力を生み非常に読みやすい。
映像コンテンツ制作を目指す人間、また今後コンテンツビジネスに関わる人間には是非目を通してもらいたい一冊である(実写にもアニメにも対応できる)。
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