Vol.23〜第一部手塚治虫とマンガ〜第二章手塚治虫成功の秘密
漫画①〈大人向け漫画〉
戦前の大人向けの漫画といえば一般的に現代につながるコマ割り漫画の粗とされる北澤楽天、ストーリーマンガの粗とされる岡本一平の系譜に連なる風刺の効いた大人向けモダニズム漫画を指すことが多い。これらの漫画は明治後期北沢楽天によって創刊された「東京パック」を舞台にその社会風刺の表現を完成させていった。漫画のルーツともいえる楽天、一平の両巨匠であるが、当時の漫画家としては珍しく全集が刊行されており、手塚治虫は父が購入したそれらの全集を幼少の頃から見ていたのである。
楽天、一平の大人向けマンガは「マンガマン」など昭和初期の雑誌を中心に活躍した近藤日出造、横山隆一、杉浦幸雄、矢崎茂四らのよって引き継がれる。彼らが中心になって結成された「新漫画家集団」は、それまでの反体制的な批評メディアであった漫画とは一線を画すプロ意識を持つ人間の集まりであった。その当時の漫画家のほとんどは画家を本業と考えており、漫画は余技、若しくは不本意ながら生活のためのものであった。その点、明確な職業意識を持った「新漫画家集団」は後進の道を開く存在となり、後年手塚治虫の生業となるマンガ家が職業としてここに確立されたのである。
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