Vol.70〜第一部手塚治虫とマンガ〜第二章手塚治虫成功の秘密
物語伝達の最適メディア化③
ビルドウングスロマンの導入
手塚治虫が導入したストーリーはそれまでギャグが主流の他愛ないメディアであったマンガを一変させた。
手塚以前のマンガはあくまで子どもだけのものであり、大人になると自然と読まなくなるというものであったが、手塚が作品に込めたストーリーは豊富な知識と高い教養に裏打ちされたものであり、戦争を体験することで得られた無常観と相まって、その後の日本マンガの原形となる〈主人公が苦悩しながら成長する〉といった展開のものであった。
その影響であろうか、日本では『スーパーマン』のようにただ強いばかりのヒーローは支持されない(最近のアメコミ原作の映画スーパーヒーローは大いに悩むようになった。多分に日本の影響を受けていると思われるのだが)。何度も壁にぶつかり、悩みながらもそれを突破して行く。結末にしても決してハッピーエンドばかりではない。戦争体験から来るものであろうが、ヒーローであっても最後に別離や死が訪れる場合もあり、しばしば運命に翻弄される。
手塚を始祖とする日本のマンガに登場するヒーロー、ヒロインは逆境に置かれながら、その中で悩み苦しみながら成長を遂げる。挫折と成長、つまり、手塚のストーリーマンガの本質は内面の成長を伴う「ビルドウングスロマン」なのである。そして、この手塚が試みた「ビルドウングスロマン」的ストーリー展開は、手塚以降のマンガに引き継がれアニメをはじめとする日本のポップカルチャーに大きな影響を与えることになる。
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