『鉄腕アトムの時代 映画産業の攻防』(吉田尚輝/世界思想社2,000円税別)その1
テレビ創生期における映像産業の事情をうかがい知ることが出来る
鉄腕アトムのタイトルがあるのでテレビアニメ創生期について詳しく書かれてあるのかと思ったが、実際手に取るとその部分は思ったより少なく、当時のテレビ・映画産業について書かれたものが主であった。著者は現在成城大学文芸学部教授であるがNHKに在籍していたということもあり専門は放送メディアであると思われる。
内容的にはテレビ創生期から全盛時に至るデータが中心で映画産業の数字もわかるので資料としての価値は高いであろう。当時のテレビ番組の制作費や輸入ドラマの購入費、また、外部プロダクションに受託事情などもわかってためになる。
意外だったのはアメリカのドラマの購入価格が意外と低かったこと。1950年代で30分ドラマが200ドル、当時のレートで72,000円である。アフレコや字幕経費を考えても安かったのではなかっただろうか。
一方、日本の映画会社製作のテレビドラマの放映権料が1955年当時30分30万円であったそうな。映画会社が強かった時代ではあるがアメリカものよりかなり割高感はある。まあ、アメリカのドラマは古いものもかなりあり、減価償却後の価格ということであったのだろう。
テレビにおけるアニメ放映の事情も結構面白い。アトム以前の放送されていたアニメの多くはかなり古い国内外の映画が主だったようである。日本のものでは戦前の村田安司制作のものやアメリカものでは1929年からつくられていた古典『クレイジーキャット(Krazy Kat)』なども放映されていたことがわかる。
さて肝心の鉄腕アトムである。
コメント