『ピクサー流マネジメント術』その2
エド・キャットムル著/小西未来訳・解説
(2009年7月/ランダムハウス講談社/税別1,500円)
ITとコンテンツが融合した優秀な共同体
ピクサーが成功した理由は幾つかあるが、何よりも大きかったのはクリエイティブな組織づくりに成功したからであろう。「素晴らしい作品を生み出す鍵は、優秀な共同体を構築することにこそあるのです」とキャットムル氏が述べているのが全てである。
では、キャットムル氏が述べる所の「優秀な共同体」は具体的にどのように機能したのであろうか。結論から先に言ってしまうと、優秀な人材からの「衆知」を集めるシステムを構築できたということではないだろうか。それは以下の二点から推測出来ることである。
ひとつはプロデューサーからのトップダウン方式ではなく、監督に多くの権限を与え、さらに各スタッフからのアイデアを積極的に取り入れるというボトムアップシステムという点。多様な視点でのクリエイティブが確保される。
次に、これは前の点とも大きく関係するがことであるが、ユニオンの制約を超えて意見交換できるシステムである。広く知られているがハリウッドではユニオンの制約が強く、職制が違えば手伝うのはもちろん、そのやり方に口を出すことさえタブーである。ピクサーはこの垣根を取っ払った。
また、ピクサーはオーナーがスティーブ・ジョブスであることを考えてもその根底に流れているのはIT・理工マインドである。最新技術の動向に敏感、制作工程を数値化するといった理数系の血が流れており、それとコンテンツを融合させられたことも成功の大きな要因とはなっている。
これは推測であるが、多分ジョブスはピクサーでコンテンツ産業のことを学び、それをiPodのビジネスに活かしたのではないか。そこが生粋のIT系であるマイクロソフトとの現在の差になったように思えるのであるが・・・。(元々理系の人間ではないし、アイデアの出方を見るとコンテンツ系の人間のように思える)
日本においてはIT系とコンテンツ系の融合が成功しているのはゲーム業界位しかないが、ハリウッドのエンタティンメント業界は最新技術に意欲的である。日本の映像コンテンツ業界に一番欠けているのはまさにその部分ではないだろうか。
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