企業ヒヤリング11〜Vol.9 スタジオ・ワイエス
【選定理由】
以前働いていたアニメスタジオで取引があったが、その誠実な仕事柄は業界でも知れ渡っており、人材育成にも定評がある(アンケートでも名前が上がっていた)。また、最近の美術業界の動向状況を知るという意味でもアニメーション美術家連盟の理事長である池田氏は適格と思えたので、まず美術スタジオとしては最初に訪ね、様々な情報を伺った。
【企業概要】
1) 企業名:株式会社スタジオワイエス
2) 所在地:三鷹市下連雀
3) 設立:1980年/法人化1992年3月
4) 代表者:池田祐二
5) 資本金:10,000,000円
6) 設立の経緯:
1980年フリーとなり次第にスタジオの形となったが法人化したのは1992年。
7) 企業属性:美術スタジオ
8) 従業員:34名
9) 制作ポリシー:
ここ数年でアッという間にデジタルが普及しおそらく8、9割はデジタル納品になっているがワイエスの方針としては手描きの良さにこだわり、納品は現在紙で行っている。手描きのスタイルを続けるつもりであるが、最近の製作のデジタル化に対応するためには紙納品のデータ化が必要になってきている。したがっていずれはデータ化のためのスキャニングを始めなければならないとは思っている。
10) 労働環境:
・ 出社は10時と決まっているが実際はバラバラ。朝早く来る人間もいれば遅い出社の人間もいる。タイムレコーダーは付けているが、それはあくまで昇給や賞与の際の評価の目安。人の倍の製作時間をかける人もいるが、単に時間だけを考えれば給料は高くなるはずだが、ずっと早い時間で同じ量と質を上げる人もいるので、一概に時間だけでは評価ができないのがこの業界の難しいところである。
・ アニメの労働環境が劣悪云々と言われているが、現実にはさほどは思われない。実際のところ本人の実力からでる長い製作時間がその原因の大半ではないか。我が社では本当に一生懸命にやればそれなりの恥ずかしくない社会生活が送られるのではないかと思っている。
【人材育成】
1) 採用傾向:
・ 主に専門学校から採用している。美大出身者は専門学校などよりも絵画・デザインの基礎を勉強した人間が多いと思うが応募者は少ない(基礎がしっかりとしていれば背景美術をリード出来る人材になれると思われるのだが)。
・ 最近、老舗の専門学校でも基礎的な勉強をさせていないようである。確かに基礎などをやらせたら生徒が集まらないのでそうなっているのであろうが、美大でも同様にデッサンはつまらないということから徐々にやらなくなってきているという話を聞く。地道に基礎をやるということがなくなってきているようである。
・ 美術背景は絵画の側面が強いので今この業界には絵画を勉強している人が入ってきてほしい。
・ コミュニケーション能力があり目的意識のある人材を必要としている。
2) 募集方法:毎年行っている。教育機関への求人票と紹介。それと、昔から付き合いのある学校からの推薦などが主。(HPによる募集も立ち上げました。)応募者は毎年10人前後か。
3) 人材の傾向:
・ 基礎がしっかり出来た人間。(余談だがアニメコンペのショートフィルムの審査の折、国内応募作品を見たのだが、背景美術が海外出品作品に比べだいぶ見劣りがした事からしても背景美術の地道な勉強がされていないように見受けられた。)
・ 基礎をやっていない人達が増えて来たところにデジタルが出て来て一体どうなるのかという想いはある。画を描く要素よりオペレーターとしての要素が求められているのではないか。基礎的なパースやデッサンに関する知識などを理解していないとこの仕事を長くやっていく事は出来ない。
・ デジタルが主流になったために、手描きを教える学校がほとんどなくなってしまっているようだ。
4) 採用試験:実技をやらせたいが、忙しいので作品選考と面接をしている。
5) 初任給:15万円。正社員。各種保険完備。
6) 研修ポリシー:
かつては3ヶ月研修をしていたが、最近の専門学校では、基礎勉強よりも本番背景のレイアウトを使った描画をしているようで、絵の具にわりと慣れているので早期にある程度の戦力となるケースが多いので今は研修期間を短縮している。しかしその後は基礎が無いと苦戦するので常にデッサンやパースの勉強が必要と教えている。
7) 研修内容:個々のレベルに合わせて教えているが、具体的には担当の美術監督に課題を出させ指導している。最終的には代表が見る。
8) ャリアアップ:ある程度のレベルになったら美術としてチームのまとめ役をさせる。現在5人ほど美術監督がいる。スタジオにとって美監は一人でも育てばいい方で、その意味では当社のキャリアアップは比較的出来ているのではないか。
9) 資格制度:余り魅力を感じない
【所見】
・ 最初の美術スタジオということもあり業界情報も含め色々教えてもらった。
・ 「作画は天性で出来る部分があるが、背景は基礎が出来てないと成立しない。長続きせず業界で生き残れない」という事を感じたインタビューであった。
・ デジタルが席巻している美術界にあって今後どの様な方向へ向かうのかが注目される。
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