企業ヒヤリング13〜Vol.11 小林プロダクション
【選定理由】
小林プロの代表は1964年アニメ業界に従事、1968年に自ら美術スタジオを設立し多数の作品に参加、アニメ美術界に革新を巻き起こして来た、同時に同プロは蒼々たる人材を多数輩出しているが事でも有名だが、その育成の秘密を聞きたいと思い伺った次第である。
【企業概要】
1) 企業名:有限会社小林プロダクション
2) 所在地:杉並区梅里
3) 設立:1968年4月
4) 代表者:小林七郎
5) 資本金:3,000,000円
6) 設立の経緯:美術教師を経て東映動画へ入社した代表が1968年独立して設立。
7) 企業属性:美術制作会社
8) 従業員: 10名
9) 制作ポリシー:
・ 美術と言うからにはクリエイティブでありたい。アニメーションは繰返しの作業。ほとんどそのうんざりするような、同じ繰り返しの作業だが、そこで技術をパターン化してしまえば効率的かも知れないが、それだけでは何の問題意識も感動も生まれない。それとの戦いであり冒険である。道なき道を行き、どこで躓き落下するか分からない。しかし、敢えて挑戦する事で本当の自分の底力を引き出す機会を得る。仕事を通じてそういった問題意識を若い人と共有し続ける事が出来たから、結果的に人が育つ事につながったのではないだろうか。
・ 最近の傾向で懸念されるのはボード主義、サンプル主義。ボードでイメージを固定化するので効率化されるが、同時に機械的になってしまう。それでは描き手の想い・イメージが伝わらない。同様にデジタルによる美術制作に関しても、描くというより魅力のない加工品という印象が強い。
・ また、もうひとつの構築性の欠如、わかりやすく言えば骨組みがないという事。ものの構造を理解する事は基本中の基本。骨組なんか見えなから無視していいというものではない。物の仕組み成り立ちを知らずしては自由には描けない。だが、構築性を考えずディテールに走りやすいというのが最近の特徴である。
・ 予断を捨て自分で生活の中にあるモノをしっかり見る事が大切。思い込みだけ描くのはなく、そして、素直な目で見るのが基本技術の第一歩である。基本が出来ていないと自分の内なるものを表現できない。思い込みはそれを妨げ、自己満足に終わってしまう。
・ 基本の必要性はスポーツに例えればよく分かる。スポーツは絶対に基本が大切である。個人の技術や能力は生まれつきの素質と基本の応用にしか過ぎない。
・ 基本と共に大切なのが触覚。人間の五感の中で一番重要な触覚がとかく忘れられがち。多くの人に気づいてもらいたいところである。触覚は体験的なものある。映像や情報を通してだけの体験ではね触角性は育たないので体験で是非自覚的に身に付けて欲しい。
・ 基本と共に必要なのは、大げさに聞こえるかも知れないが理詰めでもありたい。美術は色々な要素を組み立てて画面を演出するが、そのためには常に変貌する自然の中にある一貫した法則を見抜く必要がある。やま感と慣れに頼るべきではない。
この前故郷で中学生相手に話したのは、好きということが、自分がどれだけ才能があるか問いただす一つの方法であると述べた。どれだけ好きか、どれだけ続けられるか、どれだけ頑張れるか。それによって才能の度合いを客観的に計れると。長年続けられるのも才能の内。自分に才能があるかどうかを問いただす目安になる。
【人材育成】
1)採用傾向:−
2)募集方法:HP
3)昨年採用実績:美術・背景8名
4)人材の傾向:
大切なのは繊細さ、神経の密度、多様性と柔軟性。以前この会社に在籍し、その後美術界で一目置かれる様になった人がいるが、彼などは入ってきた時は非常に頼りない感じであった。あの頃既に背景画のパターンを知って真似事位は出来る人が多かったが、彼の場合は繊細さがずば抜けていた。しかしそのためか、自分自身に確信が無くて、いつも揺らめいていており、普通は採用しない部類の人だった。逆に、最近は情報もあるせいか小手先のまねごと出来ているだけで、画一化し硬直した感性の乏しい人が多くなった。
5)採用試験:−
6)初任給:基本給
7)研修ポリシー:
・自分の目に聞けといつも話している。人間は絵を描く上で、目を媒介にして全感覚でモノを見ている。個人差はあるが、目はレンズと同じ働きをしており、実はしっかりと見ている。人に教わるのではなく、まず自分の目に教われという事である。
・同時により多く描く事。見るだけではなく描くという動きが伴わなければ深くは見えて来ない。
8)研修内容:2ヶ月間の研修を実施
9)キャリアアップ:なし
10) 資格制度:否定的
【所見】
言葉の端々に非常に理論的な方であると感じた。スタジオライブの芦田さんにも通じるものがあるが、自分の感性を言語化できる能力をお持ちでの様であり、それが多くの人材を育てる上げる力になった事は想像に難くない。
コメント