『白土三平伝 カムイ伝の真実』
(毛利甚八/小学館1,575円/2011年7月)
白土三平初の自伝
白土三平である。私の世代はそれだけでも大変なのである。1960年代、手塚治虫で育った当時の青年層が執心したのは断然白土三平であった。その頃まだ小学生だった私は行きつけの書店でカムイ伝を読んで(子どもが見る本ではなかったので立ち読みするしかなかった)驚いた。
当時の子どもにとっての白土三平は少年に連載されていた『サスケ』であり、マガジンの『ワタリ』であった。そこに、きっかけは忘れたが(こちらも多分書店での立ち読みだったと思うが)『忍者武芸帖』に『カムイ伝』が読むことになったのだが、そのハードボイルドなバイオレンス、そしてエロスには圧倒された。
ついでに、領主、代官は悪党といった歴史観は白土三平の影響が大きいのではないか。プロレタリアート画家だった父を持ったせいかも知れないが、「おぬしも悪よのう」という代官(藩主)&金持ち商人の図式が出来上がってしまったのは、必ずしもテレビ時代劇のせいとも言えないと思う。それほど白土三平の歴史観は60年代にはまっていたのである。
白土三平は一世を風靡した劇画の総本山である。手塚治虫も劇画の台頭には心穏やかならぬものがあり、1970年代以降画風も変えた程である。
そんな白土三平は昔から神秘的な存在であり、詳しい経歴等は明らかにされていなかったので、この本が出版されるとすぐに購入した。著者は公私にわたり親交のあるライターである。
この本を読んで一番驚いたのは白土三平が『ガロ』の創刊者だったことだ。うかつにも気がつかなかったものの、そうであっても不思議ではないが、長年長井勝一がつくったものだと信じ込んでいた(それなら「カムイの女房」があってもいいのではないか)。
また、白土三平が猛烈に働いた時期があったこと知らなかった。カムイ伝当時からその存在は神格化された部分があり、半ば仙人のような暮らしをしているのではないかと思っていたが、それは1970年以降千葉に移り住んでからのことであったようだ。
この本も読んで欲しいが、まず『カムイ伝』と『カムイ外伝』を読んでみてはどうだろうか(あるいは読み返してみては)。面白さは保証する。それと『忍者武芸帖』も。
コメント