(中村珍/新潮社880円税別/2012年1月)
マンガ家のコスパ
マンガ家という職業を考える上でなかなか興味深い作品であった。「ケチな自分と戦うエッセイ」なのだそうだが、内容はマンガの制作費=経済学に迫るものであり貴重な証言となっている。
ページ1万3千円の本書の原稿を書くために、どれだけのコストがかかっているのか。気楽なエッセイマンガゆえに著者は「時給7万8千円」で描けると編集者に豪語するが、実際は凝ったページやアシスタントのギャラなどを考慮すると初回連載から赤字であった・・・
他にも面白いエピソードが満載である。例えば、3人のアシスタントに同じ画を描かせその作画制作に何分かかるかなどのタイムアタック。結構緻密な画(外車)であるが、大体1時間程で描き上げている。
さらに、マンガは何日風呂に入らないかなどについても述べられている。安田弘之、久正人、中島三千恒などに実際に聞いたそうだが、結局自分が一番風呂に入らない日数が多かったなど(著者は女性)。
ところが、連載中がはじまってすぐに東日本大震災があり、話はそちらを軸とした経済ストーリーとなる。仕事場が被災し、出版社で原稿を書き続けたエピソードや引っ越した際の経費などが詳しく描かれている。著者の実直な性格もあるのだろうが、マンガのコスパを知る上で大いに参考になった。
しかしながら、結局、マンガ家という職業を考えるについては、もっとデータがないとわからないということだ。マンガ家の総人口さえわからない状況である。また当然平均収入などもわからない。マンガ産業全体の統計を出す必要があるのではないであろうか。と思ったら、産業全体ではないが非常に参考になる本があった。次回紹介する。
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