『レミーのおいしいレストラン』〜ピクサーはどこへ行く
遅ればせながらピクサーの『レミーのおいしいレストラン』を見てきた。場所はこれもまた遅ればせながら初見参の新宿のバルト9であった。前回『バベル』を見に行った時にはフロアー一杯チケット購入客が溢れ怖じ気づいて帰ってしまった経緯がある。
今回は幸いに空いておりほとんど待たずにチケットを購入できたが上映40分前にして既に前から2列目の席であった。新宿地区初のシネコンスタイルで成功を収めたバルト9。新宿スカラ座が閉館、新宿文化が新宿ガーデンシネマとシネマート新宿にリアルニュー、新宿松竹が立て替え中と新宿の興行地図は大きく変わろうとしている。
さて肝心の『レミーのおいしいレストラン』であるが相変わらず壮絶ともいえるテクニックで見せてくれる。しかし問題はテーマであろう。どうも最近のピクサーは大人まで対象を広げているように思える。これは本来そういう指向性があったのか、あるいは多分に大人を意識してつくられた『シュレック』シリーズに触発されてのことかはわからない(アカデミー賞に長編アニメーション部門ができた年、『シュレック』が『モンスターズ・インク』と争って受賞)。
日本でそれほどでもないがアメリカで『シュレック』は国民映画である。何せ、『シュレック2』は『タイタニック』『スターウォーズ』に次いで歴代3位の興行成績を残している。これは子ども向け作品では為し得ない数字である。その意味で『シュレック』シリーズはアニメ=子ども・ファミリー向けという概念を打ち破り大人の層まで取り込むことに成功したアニメであった。
一方ピクサーは『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』で素晴らしい成功を収めていたが『ミスター・インクレディブル』から明らかに大人を意識したつくりになってきた。それは全体の分数によっても伺い知れる。昔から子ども向けアニメの長さは集中力が持続する90分以内が適切と言われてきた。『ファインディング・ニモ』はやや長いが、それまでの作品は見事にその範囲に収まっている。問題なのは大人の層を意識するのと軌を一にして数字が下がり続けているということである。六月末に全米リリースされたレミーもおそらく前作の数字を下回るであろう。
この数字の低下は、2006年にピクサーとドリームワークスに追随し他のメジャー・スタジオが一斉に3Dアニメ製作に参入した影響もある。毎年1〜2作ペースだった3Dアニメが昨年は一挙に10作以上公開された。当然数字も大きく割れた。
ピクサーはディズニーが製作を取り止めた2Dアニメの復活に取り組んでいるらしい。それはそれで非常に興味深いことであるが、「本業」である3Dアニメにおいてはもう一度子ども・ファミリー向け作品に立ち返ってはどうだろうか。これはおそらくスタジオ・ジブリにもいえることで、来年夏の作品が子ども向けになったのはそれを関知した結果であろうと推測される。
〈ピクサー作品興行成績〉
1995年『トイストーリー』81分191,796,233ドル
1999年『トイストーリー2』92分245,852,179ドル
2001年『モンスターズ・インク』90分255,873,250ドル
2003年『ファインディング・ニモ』104分339,714,978ドル
2004年『ミスターインクレディブル』115分261,441,092ドル
2006年『カーズ』116分244,082,982ドル
2007年『レミーのおいしいレストラン』120分191,041,974ドル
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