うしおそうじ『手塚治虫とボク』(草思社/1,800円+税)
昭和20年代うしおそうじは人気マンガ家として活躍していたようであるが、残念ながら私がもの心ついた頃(昭和34年)に休筆したためリアルタイムでマンガ作品に触れたことはなかった。また、うしおがアニメの『ハリスの風』や実写『マグマ大使』を制作したビー・プロの主宰者であったことも知らなかった。
本書を読むとマンガ家として売れっ子同士であった手塚とうしおの公私に渡る親しさがうかがえる。お互いライバルでもあったがマンガの勃興期における同士的連帯感があったのではないかと思う。
ところがマンガ家として人気絶頂と思われた一九六〇年、うしおそうじは古巣の映画界へともどっていく。というのも、うしおはマンガ家になる前は東宝に在籍しており、そこで動く映像の面白さを知ってしまったためであると思われる。東宝でアニメの部門に配属されたうしおはシナリオから絵コンテ、原・動画、背景、撮影、現像・ラッシュ編集までの全ての工程を担当し、アニメづくりに熱中していた。
うしおが東宝を辞めたのは有名な戦後の労働争議の余波のためで本意ではなかった。そのためマンガ家になってからも本籍は常に動画にあると思っていたようだ。こうした経歴もあり、本書に出てくる人脈はマンガからアニメ、映画まで非常に多岐に渡っており戦後のマンガ、アニメの状況や関係がよくわかる。
エイケンで長年作品をプロデュースしてきた実弟の鷺巣正安氏のあとがきによると、晩年のうしおは生前深くかかわった円谷英二、手塚治虫、山本嘉次郎といった人物の伝記三部作を構想していたそうである。もし原稿が残されているならば是非読んでみたいものである。
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