『ドラゴンボール』実写化と原作⑯〜原作者とプロデューサー、バトルの勝者は?
『メリー・ポピンズ』の原作者であるトラヴァース婦人は映像化になかなかクビを縦に振らなかったため、ウォルト・ディズニーはロンドンに出向き直訴までして権利を獲得した。このトラヴァース婦人、作品の映像化についてはかなりうるさく口を出す人間だったようで、ウォルトはそのあともずっと婦人の無理難題に悩まされ続けるように見えた。
撮影中も絶え間なく婦人から発せられる注文について、のウォルトとしては珍しく言葉に口を挟まず根気よくそれに耳を傾けていた。しかし、それは聞く振りだけで実はほとんど無視していたとのことである。さすがというか何というか。実際、ウォルトはトラヴァース婦人の強い要請にもかかわらず、かなり原作を改編している。
トラヴァース婦人の方もそれにめげるようなこともなく、最後の撮影が終わってからもその場面のカットなどを要求してきた。すると、それまで婦人の言葉を聞いていたウォルト・ディズニーは丁寧にこう答えた。
「幸いなことにトラヴァースさん、あなたの同意を必要とするのは台本であって、完成した映画でありません。そのように(契約書には)書いてありますよ。もう一度契約書を見て但し書きを読み返してください。気に入りますから」
(有馬哲夫『ディズニーとライバルたち』より)
おそらく原作者に向かってこのようなことを言えるプロデューサーは日本にはいないであろう。根本的に原作に対する考え方が違っていることを伺わせる。
それにしても何という論法であろうか。どこまでトラヴァース婦人の反応を読み込んでいたのかわからないが、完全に一枚上手である。このようなプロデューサーに対し、原作者は果たして為す術があるのだろうか。
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