岩波ジュニア新書アニメ関連本〜辻真先『ぼくたちのアニメ史』(岩波ジュニア新書780円+税)②〜忘れがたい『ふしぎな少年』
特撮や国産アニメ番組などなかった1960年前後、男の子にとってSFタッチの作品は非常に貴重で、『まぼろし探偵』、『少年ジェット』、『海底人8823(かいていじんはやぶさ)』と並んで『ふしぎな少年』もテレビの前にかじりついて見ていた。
それらの中でも特に『ふしぎな少年』の印象が強いのであるが、それはおそらく主人公のサブタンを当時有名だった子役の太田博之が演じていたからではないかと思う(手塚治虫作品だったという強い印象はない)。少年雑誌の表紙を飾るモデルでもあった太田であるが、その後余り姿を見かけなくなったと思ったら突然小僧寿しチェーンの社長として姿を現したのには驚いた。
おそらく『ふしぎな少年』を見ていた人間なら絶対忘れられないのが、あの「時間よ止まれ!」のシーンであろう。野球のセーフに似たアクションと共に主人公サブタンがそのフレーズを発すると時間が静止するという設定なのだが、当時はビデオなどなく生放送の時代で、もちろん高度な特撮技術やCGなどない。したがって、太田博之の決めぜりふに合わせて他の出演者が動きを止めるだけである。
要するに「ダルマさんが転んだ」状態なのであるが、中にはバランスを崩し堪えきれずに小刻みに身体が震える人間もいたりする訳である。それを見つけては「動いてる、動いてる」などと子どもながらも心の中で突っ込んだりしたものである。この「時間よ止まれ!」というは、『少年ジェット』の「ウーヤーター!」というかけ声と並んで昭和30年代の子どもたちの間で大いに流行ったアクションであった。
話がずいぶん逸れてしまったが、NHKで大活躍されていた辻真先さんであるが、自分の生まれ故郷である名古屋への転勤を命ぜられたのがきっかけで退職しフリーとなったのであるが、それが何と日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』の放映の一年前であった。テレビアニメの時代が来るのを知ってか知らずか、まるで仕組まれたような転職のタイミングである。
1963年の『エイトマン』で初めてアニメの脚本を書いた辻さんであるが、その後『鉄腕アトム』の虫プロなどを中心にありとあらゆる(と書いても大げさではない。例えば1968年の新作アニメ14作品ある中で辻さんは9作品に執筆している)脚本を手がけて行く。小説に活動軸を移すまでに書いたアニメの脚本はご本人も覚えきれないほどである。
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