山田玲司『非属の才能』(集英社文庫/700円税別)
驚くほど真っ当な意見
なぜこの本を買ったのかは忘れてしまったが、マンガ家の書いた本ということでおそらく個性的な言動を期待していたのだと思うが、えらく真っ当な内容で驚かされた。
著者のいう「非属の才能」の持ち主とは言葉を変えれば「みんなと同じ」という価値観に染まらなかった人間ということである。「みんなと同じ」ことが求められる社会において、「みんなと違う」自分らしい人生をどうしたら送れるかということに対して斜に構えず真正面から答えている。
おそらく、日本は著者のいう非属の才能が求められる時代に突入しているのではないか。「空気が読めない」「まわりから浮いている」「行列なんかに並びたくない」といったことを怖れず、自分の価値観を優先させる人間。歴史を見ればそうした「変わり者」が新しい価値を生み出して来たともいえる。本書はそうした人間に対して自分の価値観を認める勇気と覚悟を勧めている。細かく説明しはじめるとまた長くなるので止めるが是非目を通して頂きたい一冊である。
と同時に、そうした価値観とは真逆に「空気を読む」重要度を訴えたのが山中伊知郞『「お笑いタレント化」社会』である。著者はお笑いタレントが重宝される大きな理由として「空気が読める」ことにあるという。その場の雰囲気をつかみ番組を展開する力こそ今一番タレントに求められているという。それはある種「非属の才能」とは真逆であり、「みんなと同じ」ことが求められる今のテレビというメディアを象徴しているように思える。
この「非属の才能」であるが、これは岡田斗司夫氏が説くところのオタクが本来持っていた才能であろう。しかし、岡田氏は昭和の終わりと共にその種の人間も消滅しつつあると嘆く(ほどでもないが)。次回は『オタクはすでに死んでいる』について触れてみたい。
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