岡田斗司夫『オタクはすでに死んでいる』(新潮新書680円税別)
オタクとの遭遇
この本に関しては今さら説明するまでもないであろうが、なるほどと思わせる鋭い知見が随所に見られて非常に参考になる。1958年生まれの岡田氏は今年50歳になるのであるが、オタク世代のトップが遂に天命を知る齢となったと思うと感慨深い。
岡田氏とは4歳の年齢差があるが、少なくとも年上の私が育った世界、世代で氏の様な人間はいなかった。中学、高校には医者の息子でレコードコレクターだった同級生はいたが(この種の高踏的な趣味の人間は何時の世にもいた)、マンガ・アニメオタクと言われるような人間はいなかったには、まだ物質的余裕のない時代に生まれた世代故のことであろうか。また階級の幅が大きくなるはずの大学においてもひたすら趣味に没頭するような余裕のある人間はいなかったのはプロレタリアートの殿堂、法政大学という事情故のことであったかも知れない。
私が所謂オタクと呼ばれる人々と初めて遭遇したのは1980年代に入ってからのことで、具体的にはうる星やつらのファンの集いにおいてであった。野太い声で「ラムちゃ〜ん」と叫ぶ彼らは一様に長髪でメタボ気味、なぜかみんな大きな紙袋を引きずっていた。そして、さらに間近でオタクと呼ばれる人間を見たのは後に銀河英雄伝のプロデューサーとなるTが入社してからだった。
彼は1960年生まれ。岡田氏より2歳ばかり年下であるが、アニメやSFなどに対する知識はひとかどならぬものがあった(あとで知ったことだが)。岡田氏がいうように確かに第一世代ともいうべき人々の知識は広く深い。専門領域に関しては一角ならぬ知識を持っているし、世の事象についても一通りの言及が出来る。そういう意味でTと比べると最近のアニメ好きと言われる若者が単に年齢的な意味ではなく子どものように見える。
専門知識が無く、音楽や映画を楽しむ人は大勢いる。
裾野が広がったと喜ぶべきだろう。
玄人しか楽しめないとなると人数が限られる。
投稿情報: K | 2008/08/13 11:53