マンガ関連本3〜『絆 不肖の息子から不肖の息子たちへ』(石ノ森章太郎/NTT出版)
才能の八割は、体力である
1998年に書かれた本である。この年の1月28日に石ノ森は亡くなっており、まさに遺作と呼んでもいい著書である。
なぜこの本を取り上げたかというと、このブログで連載している「手塚治虫生誕80周年〜ポップカルチャーの元祖 その業績と評価」で、傑出したクリエータは並はずれた体力があるということを証明するためであった。
連載では手塚治虫と並んで黒澤明、谷崎潤一郎を取り上げたが、多作だった石ノ森も相当な体力の持ち主であったようだ。本人も創作と体力の関係についてはしみじみ感じたらしく、次のような文章を残している。
「今まで僕は、才能の大部分は技術だよと言ってきた。いわゆる天性のセンスを必要以上に大きく考えすぎて「自分には才能がない」と諦めてしまう人をたくさん見てきたが、天与の才など技術でカバーできるのに、と思っていた。でも今は違う。才能の八割は、体力である。間違いない。今まで常に仕事が途切れずにこられたのは、才能のおかげではなく体力のなせるワザだったんだと、身をもって実感しているのだから」
これは石ノ森が亡くなる前年の言葉である。既に身体に異変が生じておりなかなか進まない筆を考えての言葉であろう。
巨匠の作品が年を経るに連れて次第に淡泊になって行くのはおそらく体力が衰え粘れなくなるからであろう。これは単に現場での作業だけではない。作品の構成を考え続けるのも実は相当体力が必要で、なくなれば確実に思考力(考え続ける力)も落ちてくる。
体力の衰えは例外なく訪れる。近年の宮崎作品を見ていると悲しいかなそれを実感せざるを得ない。例外的なのがクリント・イーストウッドであるが、タフガイとして鳴らした体力的素地があるからであろうか。
体力は衰えてから初めてその有り難さがわかる。ということで、これから用事があって新宿まで歩こうと思っている。歩いて1時間の距離である。
コメント