職制がよくわからない
アニメの職業について昨日書きいたらまたご意見が寄せられたので少し触れてみたいと思います。
確かにアニメに関する職制は余り知られていません。アニメーター、声優といった人気職種は職制としても非常に分かりやすいところがあります。脚本もまあ理解出来ます。監督・演出も宮崎さん以下有名な人がいるので職制としてあることは分かっている。
しかし、内容はおそらく理解されていないと思います。毎回恒例の宮崎アニメのドキュメンタリーを見ると実際に画を描いてるショットがあったりするので(映像になりやすいのでこちらはドキュメントを撮るサイドの演出)、ひょっとして画を描くのも仕事と思われているかも知れませんが、ディレクター(ディレクション)という位なので作品が進む方向を指し示すのが一番、判断が二番目の仕事であると言ってもよいと思います。船長と同じで間違った方向を示すと死ぬかも知れない(作品が完成しない)。まあ、画の描けない監督もいますし、人によってスタイルが随分違っているとは思いますが。
そして、その監督をディレクションするのがプロデューサー。こちらはもっと知られてません。鈴木さんが圧倒的に有名ですが、実際に何やってると思うと聞かれて答えられる人は余りいないのでは。お金集める人というのが非常にわかりやすいのですが、プロデューサーにもエグゼクティブ、ライン、企画、製作、製作総指揮など色々あります。この変の理解がないのでアメリカと違い日本では人気がありません。アカデミー作品賞でオスカーを貰えるのはプロデューサーというのに日本人は馴染んでいません。日本はディレクターシステムなので何故か作品賞に監督が出て来ます。
制作進行ですが、実はこれは動画職同様過渡的キャリアです。一生制作進行の人はいません(そこで止めると最終キャリアになってしまいますが)。通常、スタジオは専門職(原画見習いとしての動画、ペイント、時に背景。今なら撮影などのデジタル職の採用が多い)と制作職を募集します。制作職はまず進行からスタートします。そして、そこから演出系とプロデューサー系に分かれていきます。従って、監督とプロデューサーの登竜門です。
というようなことですが、スタートの職制でその後のキャリアが固定されているかというとまた違ってきます。アニメーターの中から監督になるものもいます。これは多い。また制作の中にも結構画が描ける人間がいて制作設定などを経てキャラクターデザインや絵コンテを描くような人間もいます。ユニオンの縛りがきついハリウッドと違ってこの辺のキャリアアップのコースは実に柔軟です。その人間の最適モードを生かせるシステムになっています(実はピクサーの制作システムや人材登用制度は日本に近い)。
さらに言うと、スタジオで社員になるのは制作職、プロデューサー系です。監督以下、アニメーター等は契約、あるいはフリーになります。というかフリー志望が多い。基本監督以下は自営業であるアニメーターは職人指向が非常に強い。自分の腕で稼ぐという意識があります。なので優秀なアニメーターは常に腕を磨いています。流行にも敏感で取り残されることを非常に恐れます。ということもあり、同じ仕事をし続けるよりは新しい作品に挑戦したいという気持ちが強い。それもあってスタジオをしばしば変わります。まあ、「鉛筆一本、タップに巻いて(意味不明)」という感じですかね。
亡くなった今さんが監督という職業の本質を言い当てた絶妙な言葉があります。
「作品が出来て監督おめでとうとか言われるんだけど、実はその瞬間から失業してるんだよね」
何とも言い得て妙です。クリエーターには常にこういう側面があるということなのです。よく言われる「アニメーター残酷物語」もアニメーター(原画見習いとしての動画)がクリエーターであるからです。ミュージシャンも俳優と同じです。彼らは会社員ではなくクリエーターとしての評価が即ち報酬なのです。当然評価が上がれば収入も増えます。「アニメーター残酷物語」説を吹聴するマスコミはその辺のシステムを全然理解していません。
ということなのですが、制作職のみならず、流通にも触れようというのも書こうと思っている本の狙いです。とにかくアニメ(産業)の職制に対する情報が少ない。アニメに仕事をやろうと思ってもアニメーターと声優と監督くらいしか思い浮かばないというのが現状です。色々選択肢はあります。昔、家具屋に勤めていた人がひぐらしや劇場版チェブラシカのプロデューサーをやっているのです(フロンティアワークスの及川さん)。伊藤忠商事で秘書やっていた人間が某代理店のアニメ制作部門の局長をやっています(この人にはまだ公表の了解を取っていない)。アニメをほとんど見たこともなかったが、フリーター状態だったのでとにかく「やる気がある」言って入社し、気がついたら大手アニメスタジオの社長になっていた人もいます(IGの石川さんではありません)。
入り口が違っていても思いがあれば必ずいつかはアニメの仕事が出来るようになります。またタイミングでひょんな事からアニメの世界に入ってくる例も沢山あります。仕事は何でもそうですが一生懸命やると面白くなるものです。アニメの仕事も然り。アニメは職業としては魅力的です。世界とコミュニケーション出来る数少ないコンテンツです。若い人にはこの世界を目指して欲しいと思いますし、そのための案内としたいと思ってます(何だかまえがきみたくなってしまった(笑))。ひょっとしてもしそのまま使ってたら笑ってやって下さい。
>「アニメーター残酷物語」説を吹聴するマスコミはその辺のシステムを全然理解していません。
いわゆる「アニメーター=芸人説」ですね。でも失礼ながら分かっていないのは増田さんのほうだと思う。
一例をあげましょう。若手芸人が貧乏なのは仕事がまわってこないからですが、駆けだし動画マンは仕事がまわってきて貧乏なのはどう説明するのでしょう。だいたい芸人で超売れっ子なら年収が数億円に達するのにアニメーターだと神様級でも一千万。
投稿情報: K96K | 2011/04/14 11:53
それからJANICA設立時の記者会見から面白い発言を紹介します。増田さんが『アニメビジネスがわかる』を上梓して「アニメーター=芸人説」を得意げに披露していた2007年にすでにこういう声があがっていました。
http://www.janica.jp/press/kisha01.html
それから片一方である 「アニメーター=芸人論」ですね。芸人と同じなんだから、貧しくてもそれはしょうがないじゃないか。 これについても、ここで喋ると長くなりますんでやめときますが、わかりやすく言ってしまうと、 貧乏な芸人がどういう芸人かと言うとですね、月に一本くらいしか仕事が無い芸人なんですね。 我々は仕事はあるんです。毎日働いていて貧乏だと。それがアニメーターなんです。
http://www.janica.jp/press/kisha03.html
「アニメーター=芸人論」というのがあります。 それの呪縛ってのがずっとあって「芸人だからしょうがないだろう」と。10億稼ぐ人も、 100円しか稼げない人もいて当然だろという、メディアの方々も、 このインチキな論理を打破してほしい。論破してほしい。明らかに違いますよね。 芸人というのは、漫才であればたった二人で職業になる。アニメの場合、たった二人で職業にならない。 自主的フィルム作るなら別ですよ。たとえば長編のアニメーション作ろうとしたら、 そこには50人、100人ものアニメーター、演出、いろんな人が必要になる。 そこが基本的には違う。それから労働時間が違う。流行り言葉のワーキングプアそのものが、 アニメーターだと思います。
投稿情報: K96K | 2011/04/14 12:07
済みません、直接私にメール頂けますでしょうか。お答えしますので。
投稿情報: 増田 | 2011/04/14 12:10
いえメールはしません。こき使うときは「お前らは労働者」、金を払うときは「お前らは芸人」と雇用側が二枚舌を使い続けたツケがいま回ってきたのです。
投稿情報: K96K | 2011/04/14 12:14
大変失礼ですが、ご職業はアニメーターでいらっしゃるのですか?
投稿情報: 増田 | 2011/04/14 12:21
制作進行の上はプロデューサーとのことですが、制作担当などがあるのは東映だけなんでしょうか?
(東映だけ独特という話はよく聞きますので)
仕上げ・色彩設計・撮影・編集など、作画以降の仕事はあまり取り上げられない印象なので、そちらも是非に。
(デジタル化で特に変化があった部分でもありますし)
また、映像作品は音響関係もありますので、そちらも気になっているところです。
(例えばアニメの音効は実写とは違うでしょうし)
流通関係というと主にレーベル周りのお話になるのかな? と思いますが
(レーベルを含めた製作委員会かもしれませんが)、プロデューサー以外の役職についてはあまり知りませんので、大変気になるところです。
(個人的には個人経営っぽい形で製作されてるprimasteaの中川さんという方が気になっていたりはしますけれど)
いずれにしても、今までにない(=おそらく需要があまりなさそうな・苦笑)本になりそうで、刊行されるのが楽しみです。期待しています。
投稿情報: 浅倉卓司 | 2011/04/14 22:28