『映画館は、麻布十番から都電に乗って。』
(髙井英幸/角川書店2,940円/2010年10月)
東宝つながりでもう一冊。ジブリの「熱風」で連載されていた文章をまとめたものである。筆者は前東宝社長。実際、中学に入学し麻布十番の自宅から都電に乗って日比谷、有楽町の興業街へ足を運ぶようになるところから本書ははじまっている。
その後、東宝に入社し学生時代に通い詰めた劇場に勤務することになるのであるが、その間の1950年代から1970年代の興業事情が詳しく活写されているが、昔の映画は今のテレビのメディア力を併せ持った娯楽であったことが如実にわかる。何せ1年半近く上映されていた『ウエストサイド・ストーリー』の様な作品があったのだから。
入社して以来、一貫して劇場勤めだった著者は突然製作に移動する。36歳の時で、東宝映画に出向し、かの田中友幸のもとでプロデューサーとして働くことになったのだ。『連合艦隊』『細雪』を経て映画調整部へ異動し、そして部長、役員を経て社長となるのである。
読み終わっての素直な感想は東宝ってこういう映画好き(というよりマニア)が社長になるか、というものである。何せその前は小林一三の孫にしてテニスプレーヤーで名をはせた松岡会長だったから。そして、現在の東宝社長は前社長に引き続き調整部の出身であることを考えると、やはりここが東宝の要であることが伺える。
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