『特撮映画美術監督 井上泰幸』
(井上泰幸/キネマ旬報3,780円/2011年12月)
我が幼年期の原点
庵野さんのHPを見たら、いきなりこの本の紹介があったので思わず買ってしまった。今年夏、恒例の東京都美術館で開催されるジブリ制作展示会(今回は特撮がテーマとのこと)に庵野さんが関わっているそうなので得心出来た。
1960年代の東宝映画(クレージー、若大将であるが、特に怪獣映画)を見て育った人間にとってはたまらない本である。最近は特撮本を買うことが多いが、これは写真やイラストも多く、編集もしっかりして面白かった。
と言いながら、最近東宝の怪獣映画を見直したら、ゴジラはともかくそれ以降の作品がひどかった(ラドンとモスラはまだいいが)。これを面白いと感じていたかと思うと情けなかった。所詮子供である。
当時から、オブライエンの『キングコング』を見てストップモーションによる特撮が好きになったのだが、それに対して「膝」のある日本の怪獣などはハナから馬鹿にしていたところがあるが、和製キングコングを改めて見直すと涙が出るほど情けなかった。襤褸のぬいぐるみである。
しかし、そのセットや登場するミニチュア・モデルなどは結構好きだった。ゴジラやラドンのセットはなかなかの水準であるし、ミニチュアで言えば海中軍艦が抜群にカッコよかった。また、『マレー沖海戦』からはじまる一連の円谷作品における美術や航空機などレベルは相当高いと思う。そして、六〇年代以降東宝でその美術を支えてきたのが井上泰幸なのである。
特撮映画なのに毎回予算がないと井上泰幸は述べているが、それは現代の特撮CGにも受け継がれているようである。ハリウッドの例を見てもわかるが特撮に理解がない(しようとしない)製作者は難しい時代に入って来ていると思うのだが。
この書評を書いた後に井上泰幸さんの訃報が報じられた。享年89であった。
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