『賽徳克・巴莱(セデック・バレ)』の衝撃
ユーロスペースのあの狭いイスにほぼ5時間座っていたことになるが、その価値は十分ある作品である。というか、正直見終わって激しいショックを受けたといった方が正しい。そして、それは、日を追って大きくなりつつある。
この作品を現代の常識では推し量ることは無理である。人間は得てしてその時代が持つ通念で過去を裁断してしまうという過ちを犯す。現代の感覚で言ってしまえば、『セデック・バレ』は「野蛮」としか呼べない映画であるが、その持つ意味を理解すればこれほど深い作品もない。魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督の勇気に改めて拍手を送りたい。
台湾映画の新しい波
今、台湾映画に新しい波が訪れているようだ。キネマ旬報5月上旬号で暉峻創三による「熱き台湾映画新世代の映画人たち」という特集が組まれているが、その中の総論のタイトルが「歴史上かってない活況を呈す台湾映画の今」である。
この記事によると、台湾映画は30年ほど前に、侯孝賢やエドワード・ヤンらによって築かれた台湾ニューシネマ時代の活況から一転して落ち込む状況が、ここしばらく続いていた。例えば、2001年の台湾における映画興行収入に占める台湾映画の割合はわずか0.17%という惨憺たるものであった。翌02年には2.24%となったものの、03年0.3%、04年1.13%、05年1.59%といった状況。人々はハリウッドに夢中になり、台湾映画を避けていたようだ。
そんな状況を一変させたのが魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督であった。08年、『海角七号 君想う、国境の南』は、自主製作と呼んでもいい態勢で製作されたにも関わらず、台湾映画史上NO1となる快挙を成し遂げた。この作品をきっかけに、台湾映画の気運が盛り上がり次第にシェアも回復。『海角七号』が公開された08年には12.9%、翌09年には2.13%と落ち込んだものの、10年には7.31%、『セデック・バレ』が公開された2011年には一気に18.65%までアップした。
これは、ウェイ・ダーションと共に台湾の若い映画人が育っているという証拠であろうが、今回ワーナマイカルで上映される、『Time of Cherry Blossoms』の蔡旭晟監督(ツァイ・シウチェン)もそうした台湾映画のニューウェーブの流れに位置づけられるのではないかと思う。なぜなら、蔡監督の作品はそれまでの台湾製アニメーションとは全く異なるからである。
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