佐藤尚之『明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法』(アスキー新書/743円税別)
「ネオ茶の間」がアニメの新しいクチコミ源となるのか?
筆者は大手広告会社勤務のクリエィティブディレクターで、あの新聞紙上を賑わした「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」を手がけた人間である。著者も著書も有名なので既に読まれた方も多いと思うが、前回も言及したアニメのウィンドウに関する考察のヒントになるので紹介したいと思う。
佐藤氏は「広告は消費者へのラブレター」であるという。そして、十数年前までは渡す相手(消費者)にいとも簡単に手渡すことが出来た。それは圧倒的な媒体力を持つ4大マスメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)に広告の流通を委ねておくだけでよかったからだ。
この状況はテレビアニメについても同様で、テレビにさえ流しておけばそれ以外のプロモーション方策はほとんど考える必要性がなかった(まだ深夜アニメがはじまる前の時代である)。したがって、ある意味で枠さえ取れればあとは作品力次第といったその状況がテレビ以外のメディア政策を考える力を奪ってしまったといってもいいかも知れない。
テレビがその力を失いはじめた原因について佐藤氏はクチコミ源としての「お茶の間の消滅」を指摘している(同様の指摘をアニメ評論家の氷川竜介氏も月刊アスキー8月号に連載の「アニメビジネス45年の軌跡」で述べている)。そして、かつてテレビが担っていた「お茶の間クチコミ」の役割を、今ではパソコンやケータイがそれに取って代わる「巨大なバーチャルお茶の間」が登場し、「新しいクチコミ減」になったと喝破する。「ネオ茶の間」の出現である。
果たしてこの「ネオ茶の間」がアニメの新しいクチコミ源となるのかどうか(一部では結果が出ているが)、アニメ産業にとっての大きな選択肢のひとつであることは間違いないであろう。
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