伊藤寿朗『ケータイ小説活字革命論』
文体は軽いが執筆は壮絶?
ケータイついでにもうひとつ、ケータイ小説事情に触れた本を紹介してみたい。
本書は現在最大のケータイ小説サイトである「魔法のiらんど」の元プロデューサーで、『恋空』『赤い糸』『純愛』『もしもキミが。』などリアル出版物として累計で500万部に及ぶ作品を手がけた編集者である。
それにしても一昨年、昨年のケータイ小説ブームは凄かった。本書に書籍かされたケータイ小説の売上が載っているが2006年で年鑑ベストテンの中の3作品(『恋空 切ナイ幸物語(上)(下)』『天使がくれたもの』『LINE』)、2007年には実に5作品(『恋空 切ナイ幸物語(上)(下)』『赤い糸(上)(下)』『君空“koizola”another story』『もしも君が。』『純愛』がランクインしている。
筆者はケータイ小説が音楽のライブに相通じるものがあるという。読者が聴衆であり、彼らのコメントによる反応によって作者が書き方のスタイル、つまり演奏をどんどん変えて行く。演奏の骨格だけを決め、内容はその時の状況によるというジャズで言うところのインプロビゼーションに近いものがあるということであろう。したがって、書籍化されたケータイ小説はスタジオ録音のパッケージ化されたCDに当たるとのことである。
だからケータイ小説の作家には「美嘉」「Chaco」「メイ」「凛」といったミュージシャンのような名前が多いのであろうか。なるほど、音楽に近い感覚なのかも知れない。
本書の中で壮絶であったエピソードをひとつ。『恋空』の作者である美嘉氏は書籍でいうと上下巻700ページに及ぶ大作を直接ケータイに入力したそうだ(オリジナルはもっと多かったとのこと)。親指が限界に達すると、ケータイを机の上に置いて人差し指で打つ。やがて親指の皮が剥けてくるので靴下を巻き付け入力するのだがそのうちタコができるのだそうだ。
爪が指に食い込んだり、肘が曲がらない、腱鞘炎になるといったケータイ小説化が多いというので、不思議に思ってフロントメディアの社長である市川氏に事情を聞いたら、ケータイ小説の入力はコピペができないとのことで、とにかく指で直接入力をせねばならないとのこと。うーん、苦行のようなケータイ小説。
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