『文化に投資する時代』(亀田卓+寺嶋博礼/朝日出版社1,300円税別)その2
「金融とエンタティンメントは水と油?」
本書の第二章「金融とエンタティンメントは水と油?」で積年の疑問が解けた。ずっと金融業界(やそれによく似たIT業界)の人間と話が合わないなと思っていたその訳が、同時にエンタメコンテンツ業界しか経験したことのない自分の狭さも思い知らされた。
亀田氏のいう「金融とエンタティンメントは水と油?」は「ITとエンタティンメントは水と油?」と置き換えてもよい。以前も述べたが、現在一応IT業界にいる身としては、ITとエンタティンメントの間には「深くて暗い川がある」(野坂昭如『黒の舟歌』です)と思っていた。
もちろん、金融の人ともなかなか話が合わないのであるが、この本を読んでハタと気が付いたのは金融やITが変なのではなく、今となってはその古さや狭さによってエンタメ業界の方が特殊なのではないかということだ。
亀田氏は金融とエンタメでは全く言葉が通じないという。私も確かにそう思っていたが具体的にそれが何であるかまでは突き止めなかった。それが亀田氏の指摘で実に腑に落ちた。
まず、「人の言葉を信じないVS人の言葉を信じる」。金融が性悪説なのに対してエンタメが性善説ということになろうが、確かに私は後者の方である。エンタメ業界は狭い世界なので信用が大事であり、そのため性善説の人間が多く人の言葉を信用する傾向が強いと亀田氏は述べるがなるほどその通りである。
「すべてを数字で語るVS数字が嫌い」というのもうなずける。エンタメ業界は一般的に数字に弱く、事業計画を書きながらも、「当たるか当たらないかわからないし、こんな数字当てにならないよな」と思っていたりする。それよりは、アーティストや作品の魅力を伝えた方がよっぽど効果的であるなどと思ったりするのである。
「時間の概念VS時間の概念に鈍感」も全くその通りである。実は昨年あった経産省の研究会でプロダクションIGの郡司さんが、「アニメ業界には利回りの発想がない」と発言されて目からウロコの思いでいたのであるが、確かに「時は金なり」という発想が希薄、というより皆無に等しい。最初に入ったレコード会社でもミュージシャンの売り出しには随分と時間をかけたし、アニメ業界もまあ最後にトントンになればいいというノンビリしたものであった。そこには投資・回収という発想はなく、時間軸に沿った利回りの発想もない。いや持てないのである。
亀田氏の指摘で思ったが、エンタティンメント業界の人間は長らく「エンタメ天動説」の世界で生きてきたのであろう。
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