『文化に投資する時代』(亀田卓+寺嶋博礼/朝日出版社1,300円税別)その3
エンタメ業界の開国
エンタメ業界にどっぷりとつかっていた私であるが、ある時オヤッと思った事件があった。1990年デビッド・ゲフィンが自ら設立した大成功を収めていたゲフィン・レコードをMCAに売却した時である。こういった発想は会社を売り買いする文化に馴染みの薄かった日本のレコード会社にはなかった(洋楽系のレーベル売買はよくあった。1968年にソニーがCBSコロムビアをつくったように)。おそらくその時からゲフィンは映像の世界に進もうと思っていたのであろうが、そのように冷静に切り売りするという発想自体が新鮮であった。
会社とは売り時があるようだ。自分が在籍したキティレコードやアルファレコードなど、一世を風靡した中堅処のレコード会社のほとんどが現在では大手に吸収されてしまった。ゲフィンのように売却するという選択肢(発想)がなかった時代なので仕方がないのだろうが、やはりエンタメはビジネスで割り切れる世界ではなかったのである。
1990年代前半、キティレコードがポリドール(ユニバーサル)に吸収された時に思ったことは、エンタメ企業はどれほどクリエイティブ中心であっため経営権の51%はビジネスサイドが握るべきであるということだ。そうしないとほぼ間違いなく潰れてしまうからである。実際、クリエーターが実権を持つ会社(俳優なども含む)の多くが継続不能になっているのを見てもわかるだろう。
私が30年ほど前にレコード業界に入ったとき、市場規模は3,000億と言われており豆腐の売上と同じと自嘲的に誰かが語っていた。まだ社会的な地位も低く現在のように知的立国に寄与する産業とは思われていなかった。多分、音楽業界をはじめとするエンタメ業界全体の意識もそのままなのではないか。
しかし、時代はエンタメ天動説から地動説へ、そして業界開国へと移行しているようである。嫌が上でも金融、あるいはITとの提携、融合が促進されるであろう。エンタメ業界も自らを客観的に説明できるような姿勢(つまり数字である)が必要とされているのは間違いないであろう。
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