『文化に投資する時代』(亀田卓+寺嶋博礼/朝日出版社1,300円税別)その4
エンタメの数値化に成功した金融マン
エンタメ業界を開かれたものにするためには外の世界に通用する共通言語が必要であり、一番わかりやすいのが数値化することであろう。
本質的にエモーショナルであるエンタメ表現に基づくビジネスを如何に数値化するのか。これこそエンタメ業界に今一番求められているものであるが今まで誰も為し得なかった様に(少なくとも私には)見える。そんな状況の中で、唯一その理論化に成功したのが本書の寺嶋さんであると思う。
寺嶋さんと出会ったのはまだあおぞら銀行におられた時で、とある研究会でのことである。それ以来、まじめな銀行員という感じであった(映画、音楽に相当詳しかったとは不覚にも知らなかった)寺嶋さんと言葉を交わすようになったが、ある時一緒にファンドを組みませんかというお話しを頂いた。
ちょうどその時期はアニメに対する関心が高まり、金融機関や業界外部からの投資がはじまりかけた時代であったので他からも色々なお話しがあったが、それらのオファーは一度も結実しなかった。何故かと言えば要するに判断出来なかったからである。いろいろな作品の企画を提案するのであるが、結局そのビジネス判断が出来ないため決まらないのである。
そんな中で寺嶋さんだけは違った。猛勉強して自らマーケットデータをつくり自ら判断するのである。『突入せよ!「あさま山荘」事件』や『呪怨』などに投資する際に適用したマーケット手法などを聞く機会があったがなるほど説得力があった。そんな寺嶋さんはアッという間に会社の了解を取りファンドを組成させた。そして寺嶋さんのデータに基づいて投資した作品は早々に投資回収が決まった。恐るべし打率7割の投資家、である。
寺嶋さんが他の金融機関の人間と大きく異なっていたのはその腰の低さである。不倒神話が消えたとはいえ、エリート意識が抜けきれない大手金融機関の人間にありがちな嫌味が全くない。それは本にも書かれているが務めていた日債銀の国有化の際に深く考えるところがあったからであろう。しかしながら、寺嶋さんには申し訳ないがもし日債銀があのようにならなかったら、アスミックエースを行く機会もなかったかも知れないことを考えると、実はご本人のためにはよかったのでないかと思う。
寺嶋さんが現在働いているアスミックエース・エンタティンメントは創業者である原正人氏の哲学(「映画プロデューサーが語る“ヒットの哲学”」にそれが詳しく書かれてある。こちらも是非読んで欲しい)が脈々と息づいている会社である。現在の社長豊島(てしま)さんはまだ45歳の若さであり、今後大いに期待が持てる。アスミックは寺嶋さんは活躍するには最適な舞台であると思う。
個人的な話が多くなったが是非本書を一読して欲しい。
コメント