『偽りの民主主義 GHQ・映画・歌舞伎の戦後秘史』(浜野保樹/角川書店2,000円税別)
敗者が味わう屈辱
『表現のビジネス−コンテント制作論』『模倣される日本』『アニメーション監督 原恵一』など、コンテンツやポップカルチャー関連の著書で知られる東京大学新領域創成科学研究科教授の浜野先生が完成までに七年もかけた畢竟の大作である。
既に広く知られたことであるが、戦後GHQが民主主義の名の下に日本人を教化しようとしたそのやり方は決して民主主義的なものではなかった。出版物や放送、映画、演劇などに関する巧妙な事前検閲(指導という表現をつかっていたが)は当然の事として行われていたし、しばしば担当者の独断で決められる場面も多かった。
ということで、本書はOccupied Japanにおいて日本の映画人、演劇人が味わった屈辱の歴史を詳細に伝えているのであるが、読んでいると間違いなく腹が立つ。
この本を読んでいると、つくづく戦争に負けるということはこういうことなのだと考えさせられる。何が何でも戦争を回避しようとする憲法第九条擁護論者ではないが、調子に乗って先を見誤ると塗炭の苦しみを待っているということを忘れてはならない。
500ページにもなる本書に書かれてあるのはOccupied Japanにおけるダークサイドだけではない。『羅生門』などが世界の檜舞台に立ったその経緯なども詳しく書かれている。その意味ではOccupied Japan時代における映画・演劇(歌舞伎)の姿を伝える貴重な書籍である。アニメのアの字も出て来ないがエンタメの歴史を知る上での資料的価値十分の大作である。
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