海部美和『パラダイス鎖国』(アスキー新書724円+税)5〜Peggy Charren、アメリカのアニメ事業者に取っては不倶戴天の敵?
最後に『鎖国化する日本』で指摘しておきたい部分をひとつ。23pに「96年に(注:アメリカに)地上波テレビ局にこども向け番組を週に3時間以上流すことを奨励する法律ができ、アニメの「特需」が起こった」とあり、それが実際どのような情況であったかというと「土曜日の午前中に3時間の「子ども番組枠」を設け、それを埋めるためのコンテンツを調達する必要から、日本製アニメが登場したのである」と述べられているが、これはどこから取った情報なのであろうか?
アメリカのテレビ局では60年代から土曜日の午前中は「Saturday Morning Cartoon」といってずっとアニメ番組を流していた。だから96年に突然アニメを大量に放送することが決まった訳ではない。
96年といえば「Children's Television Act」の提案を受けてFCCが各テレビ局に対して教育番組に力を入れるように指示した年である。このCTAは日本で言えばPTAような全く真面目な団体でむしろアニメを排除する動きを見せるところである。
したがって、この「子ども番組枠」というのは、おそらくアニメではなく真面目な教育番組ではないだろうか。なぜならChildren's Television Actの運動を起こしたのはPeggy Charrenといって60年代にアニメを俗悪であると告発してその後規制が強化される原因となった人間であるからだ。
その意味で彼女はアニメ事業者にっとって不倶戴天の敵ともいえる訳であって、その人間がはじめた運動によってアニメ番組が増えるとはとうてい考えられない。実際その時代にアメリカのアニメビジネスが活性化したという事実はなかったのである。