企業ヒヤリング10〜Vol.8 スタジオ・ライブ
【選定理由】
日本を代表する作画スタジオ。ここから育った原画マンは数知れず業界の「残存率」も高い。代表は様々な所でアニメーターの指導をやっており是非インタビューを行いたいと思った次第である。また、今回のアンケートで最多の原画マンを抱えていたのがライブであった事も付け加えておく。
【企業概要】
1) 企業名:株式会社スタジオ・ライブ
2) 所在地:板橋区若木
3) 設立:1976年7月
4) 代表者:芦田豊雄
5) 資本金:10,000,000円
6) 設立の経緯:
TCJ映画部(エイケン)の作画出身の代表が虫プロダクションを経て1967月に有限会社スタジオ・ライブを設立。1994年12月に株式会社に改組した。
1) 企業属性:
作画スタジオ。設立当初は作画専門スタジオであったが、後にプリプロダクションや元請などもやるようになった。自社所属のアニメーターを各社へ出向の形で派遣している。
2) 従業員:40名
【人材育成】
1) 労働環境:
・ 全国にいるフリーの原画や演出や絵コンテマンの仕事やスケジュールをお世話出来る場所が無いものかと考えている。現状では人材を活用し切れていないし。本当はリアルな絵が得意な人が萌の絵を描かされるといった具合に、そういうところでストレスや無理が生まれる可能性がある。また、上手いのに仕事が無い少ない、途切れるといった事が無いように管理するというシステムがあれば、業界のために役立つのではないかということが自分の妄想にある。
・ 今後アニメ業界が世界に向けて戦っていく時にまずやらなければいけないことは、制作スケジュールの正常化。必ず、全ての作品に色が付き、編集も済んだ状態でアフレコやダビングが不備無く終われるようにしなければならない。発注側や制作サイドもわずか数ヶ月しか無いのにいきなり仕事を持って来ても、無理なら無理と言える環境を作るべき。
・ 今まではそんな状況でも作ってしまうから質的な問題と無駄なお金を使っている。それに関わる人達の精神と肉体のストレス。アニメーターやコンテマンに取って、普通レイアウトから原画まで5週間もらえればそこでキチンと計算が立って、お金の算段が出来、休日も決めることができる。と
・ ころが、今は打ち合わせをしたら1週間でレイアウトをくれとか極端な場合は3日の場合もある。 レイアウトをアップしたが戻ってこないので仕方なしに他の仕事を引き受けるため小刻みな仕事が増える。しかし、その仕事でも戻ってこない事があるから、4本も5本も掛け持ちで10カット程度の小刻みに仕事をこなし細々とお金を稼いでいる。本来は一本の自分が気に入った仕事をやるべき。そして流れが演出で停滞しているケースも多い。何故ならばなぜ演出も同じような仕事の受け方をしているから。余所の作品を何本もやっており悪循環。
・ アニメーターはコア人材といわれていますが、仕上げの人の方がお金持。真っ先に業界がやらなければいけないことは、職種毎の分配比率を変えること。一社だけでは出来ない。コア人材ってアニメーターや演出や監督の事。コア人材と言うのなら経済的にフォローしてくれないと。それにはお金を移動してくれるだけでいい。
・ 年収300万円あるアニメーターに対し、あなただったら600万円以上有っても全然おかしくはないという経済的背景をしっかり作らないと、優秀なコア人材がいたとしても生活出来なくて辞めてしまう。
2) 人材の定着率:
・ アニメーターの業界の定着率は、今年度100人入ったとして10年後残っているのは3%。残りの97%は離職している。
・ 入ってきた人たちを定着させる事の方が重要。新人を育てる事はもちろん大事だが才能のある人たちが居られない様な環境を続けて行く限りはダメ。やめて行く一番の理由は生活出来ないから。
・ 手前味噌ではあるが30年経つスタジオライブ出身者・関係者の業界残存率は80%を超える。
・ この数字が意味しているところは、曲がりなりにも業界にいて長年食えているという事。若木塾や作画講座をやる動機はここにある。スタジオライブ出身者が食えているノウハウを他の人達のスタイルに適応させる。アニメーター、演出を取り巻く経済的環境を少しまで改善できる様に頑張ろうと思っている
3) 初任給:基本給+出来高
4) 研修ポリシー:(製作現場において)
・ 6ヶ月の研修期間を設けている。
・ 教えるポイントは数値化しようという事である。演出と原画マンとの間でのレイアウトを巡るリテイクの応酬に一番時間がかかる。5x5は25にならなければいけないのに、人によっては解釈や理解、あるいは単位が違っているではないか。
・ アニメの絵作りには何十人もの人が関わっており、その人達の協力があって初めて1カットが出来上がる訳だから、そこには共通の数式がなければいけない。絵コンテから3DCGまで、その数式の照らし合わせをすべきではないか。自分がやっている講座は絵コンテから3DCG、背景、演出、作画の人、またその会社で絵作りに関わる人間をベテラン・新人関係なく一箇所に集めて数式合わせをしようじゃないかということである。芦田式数式合わせとでも言うべきもので、ひとまず試みとして今やっている。
・ 制作工程の各役割の中で認識や知識が共有されていない。透視図法が良い例で、参考書と言われているものの中でも間違っている場合が多く、その参考書を教育機関が使っていたりする。
・ 数式だから正誤を証明できる。特に透視図法は定式化された概念だから絵が描けない人も理解は出来る仕組みになっている。ただ途中で透視図法を学ぶことをやめてしまう人が多い。
・ 自分で透視図法を学び納めるとなるとすごい時間がかかる。だから絵描きが個人的研鑽を以って5年10年かけて学ぶところを、数時間で(絵を描く上で必要な要点を)教えようというのが今回の講座である(練馬区でやる予定)。
・ 例えばゲンコツがあるとする。普通拳を握ったら、親指は中指辺りにまで来る。ある人は小指あたりにまで親指を持っていくように描くが、それは痛くて骨が折れてしまう。それは知識。間違った絵を描かないために知識を与える。間違った絵を描いていた人間に正しい知識を与えると次の日から描かなくなる。
・ 同じように2点透視図法、3点透視図法その場で描かせる。コンテでその辺を押さえてくれるならば、今みたいなリテイクの応酬もなくなる。特に演出は人の絵をジャッジする権力を持っている以上、判断するための知識を持たなければいけない。自分のイメージだとこうだ、自分としてはこうだけれど、といった類いのリテイクではなく、このレイアウトは透視図法からすればこうなるのではとか、消失点がここにあるからこういうレイアウトにしなければいけない説明することが重要。
・ スタジオライブの連中はさっき説明したやり方を知っているので業界で戦っていけた、だから80%近くが生き残った。
・ 今練馬区と講座の話をしている。今まで2年間ボランティアでみんなに手伝ってもらっていたが、流石に資金もないし事務所もない。皆、休みなどを犠牲にしてきているので少額でも支払いたい。
・ 昔オタクだった連中、ヤマトやガンダムを見たりしながら理屈こねてた連中が今はプロになっている。その世代の庵野さんもなどは業界の中心になって活動したりしているが、今の萌えアニメを見ている層は、今後使える人材になりえるのか。そういうのを見ている層はその種の絵しか描けないという状況になっており、いきなりあしたのジョーを描けといっても、対応出来ないのでは。腐女子は格好良い男性は描けるかも知れないが、凶悪な悪役とかは描けないであろう。研修内容:基本OJT。その他、役職に応じた研修を行っている
5) 資格制度:アニメーターに関してはあれば採用の目安となる。また、教員免許的な資格制度も意義がある。
【所見】
この後出てくる、日本のアニメ美術界の巨匠小林七郎氏同様、実に論理的であった。実際その場で透視図法を説明して頂いたが、何となく分かった気分になったのは確かである。「芦田メソッド」を是非一冊の本にして欲しいと感じた次第である。