『2011年新聞・テレビ消滅』佐々木俊尚
(09年6月/文春新書700円税別)
今後のメディアにおけるプラットフォームとマーケティング
アニメビジネスの書評ながら、どうしてもこういったメディア系の本が多くなるのは、アニメビジネスに関する本が少ないとこともあるが、ケータイで動画を配信しているといった職業上の都合のためである。まあ、しばし続くがご勘弁願いたい。
新聞・テレビ消滅とはいささか刺激的であるが(今となってはそうでもないでしょうが)、本書の趣旨は移り行くメディアにおけるマーケティングとプラットフォームの今後についての論考である。
まず目についたのが、『マンガ産業論』を著した中野晴行氏が電子書籍(書籍『マンガ進化論』になっている)述べた、マンガ産業界のマーケティング不在状況についてである。これは別にマンガ業界ではなく、日本のコンテンツ産業全般に言えることであろう(と言うかほとんどの日本企業がそうなのであろうが)。
おそらくキチンとしたマーケティングを企業が導入し、その結果に従って改革したらコンテンツ産業はもちろん、メディア産業も激変するであろう。本書にあるように確かに今の若者は「金と権力と女」に興味があるとは思えない。従って、マーケティング調査を試みてみたら、自分たちのメディアそのものが不要、という結果が出てくる可能性は十分考えられる。
そうなると、「お前はすでに死んでいる」ということになってしまうのだが、そこで何とか頑張って生き延びようとするので諸々問題が生じる。それが既得権益者、あるいは守旧派の抵抗と映るであろう。日本は既得権益が強く、江副さん以来の起業家叩きの伝統がある限り世界に通用するような創造的価値の創出は難しい。
次に主に動画を巡るプラットフォームの今後についてである。もちろん、日本の動画コンテンツの中心にはテレビ局がいるのだが、地デジに移行する2011年以降も果たして支配的なプラットフォームとして存続し得るのか、といった論考が進む。
まだ豆粒のような規模であるが、ケータイでの動画コンテンツプラットフォームを目指す事業をやっている身とすれば、本書の問いかけは実感が伴う。ある意味、動画コンテンツプラットフォームを巡る争いは、膨大なコンテンツとそれに付随する情報をどのように処理して行くかといった、データを巡ってのこととなるであろう。