『アニメ文化外交』その2(櫻井孝昌/ちくま新書760円税別)
アニメビジネスの将来像
日本のアニメの人気が落ちていると言われている。しかし、本書の筆者が「アニメに関していえば、まだまだ伸びる余地は十分あると見ている。いや、伸びる以前に、世界市場で、現段階でとりこぼしている分をとりかえすだけでもそうとうな額に伸びるとふんでいる理由は、まさにここにあるからだ」と述べているように、実際は作品の人気を十分マネタイズできていないところに根本的な原因があるではないか。
つまりはここがアニメ不況説の出所なのである。人気ではなく売上の低下である。デジタルコピー技術やインターネット登場以前のアニメビジネスでは、海賊版の問題はあったにせよ人気が売上にある程度連動していたのであるが、現在では必ずしもそうならないというパラドキシカルな状況が現出している。
では、アニメビジネスは何処に向かえばよいのか。『アニメビジネスがわかる』ではアニメの未来は音楽にあると書いた。デジタル革命に伴い音楽業界では一足先に制作、流通面で劇的な変化を遂げてしまっているが、果たして現在どこに向かいつつあるのか。
未曾有のパッケージ売上減に悩む音楽業界に変化を告げたマドンナであろう。デビュー以来25年間も在籍したワーナーレコードを離れ2007年に彼女が移籍したのは、57カ国で1,500組のミュージシャンによる16,000回ものコンサートを取り仕切るプロモーターLive Nationであった。1億2千万ドルの現金と同社の株式(ニューヨーク市場に上場)を移籍の対価として受け取ったとのことであるが、何よりもレコード会社ではなくプロモーターをマドンナが選んだという事実は音楽業界に大きな衝撃を与えた。
このマドンナの移籍が示しているのはパッケージビジネスからライブビジネスへの移行である。かつてはアルバムプロモーションのためのライブツアーというスタイルが多かったが、現在では逆にかつての大物バンドが再結成ツアーの記念にアルバムを出すといったようなケースが増えている。
新曲はタダでもいい。それを出来うる限り無料でダウンロードさせて聞いて貰う。そして、その曲を聞きにコンサートに来て貰うというビジネスモデルだ。今やミュージシャンの収入源は入場料とコンサートで販売されている記念グッズになりつつある。
音楽にはライブという収入源があった。ではアニメにはそれに相当するものがはたしてあるのだろうか?